『存在と時間(ハイデガー)』要旨・要約、感想とレビュー

『存在と時間(ハイデガー)』要旨・要約、感想とレビュー

『存在と時間』の基本情報

書籍名:存在と時間 上・下
著者名:マルティン・ハイデガー
翻訳者名:細谷貞雄
発行:筑摩書房
発行年:1994年

『存在と時間』のキーワード

カテゴリ:哲学
キーワード:西洋思想、存在論

『存在と時間』のレビュー

マルティン・ハイデガー。哲学に興味のない人でも、一度は聞いたことがある哲学者だろう。歴史や倫理の教科書で、あの眉間にシワがよった気難しそうな顔立ちを見たことがある人はとても多い。

しかしながら、その思想について少しでも知っているという人はとても少ない。無理もない話である。ハイデガーの最も知られている著書は『存在と時間』であるが、『存在と時間』は実は未完であり、その内容をまとめるのが非常に困難なのである。

通常、『存在と時間』の概説は、本書の「巻頭言」・「序論」でハイデガーが細かに示した議論の針路にしたがって示されるが、どこまでその概説がハイデガーの意図に沿っているかは判断しかねる部分がある。

このように、『存在と時間』の思想は、全くいやらしいほどに謎めいているが、だからこそ思索する価値があるのかもしれない。「ある」とは何か。哲学史上最も古くから考え続けられてきたこの問題を「時間」という新たな基軸から捉え直し、20世紀ドイツ・フランスの思想界に衝撃を与えた一冊をぜひご覧いただきたい。

『存在と時間』の要旨・要約

思考する人間は、その思考以前の段階で、すでに人生の歴史の中に投げ出され、現に存在している自己を引き受けて「現存在」として実存(=現実存在)している。

この「現存在」としての自我は、自らの住まう世界に浸り、世界の他の存在しているもの(=存在者)との関係のうちで「世界=内=存在」として実存している。このとき自我は、自らが関わりうる他の存在者との関係の全てを了解している(例えば、「空気を読む」という行為においてすでに自分の行動が周りに及ぼす可能性が了解されている)。

自らの行動を規定しているこのような関係の可能性の総体を本書では「存在者の存在」と呼ぶ。そしてこの存在への了解は、その背後にある「時間」によって可能になっているとハイデガーは指摘する。

ハイデガーが指摘する「時間」とは、直線的に流れる一般的な意味での時間とは異なり、現存在である自我が己の究極的な有限性=死を自覚して行動することによって開示されるものである。

『存在と時間』への感想

ここでは、本書を実際に開く前に意識してほしいポイントを2点指摘する。「存在者と存在の違い」と「一般的な時間とハイデガー的な時間との違い」である。

存在者と存在の違いは、専門用語で「存在論的差異」と言う。極めて簡潔に言えば、今ここに存在している「私」と、「私」が今ここに存在しているという事態そのものは本質的に異なっているということである。

存在者としての「私」の特徴はいくらでも挙げられる。大学生であるとか、日本人であるとか、西日本出身であるとか。しかし「私」の存在の特徴を挙げるのは難しい。「私」に関して何か説明しようとしたとき、その説明はすでに存在者としての「私」の説明になっているからである。存在者とその存在の違いは、ひとまずこのように考えておくといいだろう。

一般的な意味での時間とハイデガー的な意味での時間についての違いも極めて本質的である。一般的な意味での時間は、主体によって認識されるものであるとされている。ところがハイデガーが用いる「時間」は、主体の「死」において開示され、主体が世界=内=存在として実存することを可能にするものとされている。

主体にとって死は逃れがたい己の限界であるが、同時に自分自身にしか受容できない固有なものでもある。その死が自覚されるとき、他ならぬ固有の「今、ここ」に自らが存在することが可能になるのである。

簡単な紹介のつもりで『存在と時間』のポイントを語ってみたが、やはり読んでみないことにはピンとこないだろう。存在とは何か。そして存在を実存させる時間とは何か。私たち全てに関わる存在の問いの重さと深さをぜひ体感してほしい。

『存在と時間』と関連の深い書籍

『存在と時間』と関連の深い「西洋思想」の書籍

  • アクィナス著・稲垣良典訳『在るものと本質について』、知泉書館、2012年
  • アリストテレス著・出隆訳『形而上学 上・下』、岩波書店、1959年
  • デカルト著・山田弘明;吉田健太郎;久保田進一;岩佐宣明訳『哲学原理』、筑摩書房、2009年
  • ブーバー著・植田重雄訳『我と汝・対話』、岩波書店、1979年

『我と汝』の要旨・要約、感想とレビュー

『存在と時間』と関連の深い「存在論」の書籍

  • カンタン=メイヤスー著・千葉雅也他2人訳『有限性の後で:偶然性の必然性についての試論』、2016年
  • グレアム=ハーマン著・岡嶋隆佑他3人訳『四方対象:オブジェクト指向存在論入門』、2017年
  • マルクス=ガブリエル著・清水一浩訳『なぜ世界は存在しないのか』、講談社、2018年

『なぜ世界は存在しないのか』要旨・要約、感想とレビュー

  • レヴィナス著・熊野純彦訳『全体性と無限 上・下』、岩波書店、2005-2006年

『全体性と無限』要旨・要約、感想とレビュー

  • 西田幾多郎著・上田閑照編『西田幾多郎哲学論集<1>場所・我と汝他六篇』、岩波書店、1987年
  • 和辻哲郎著『倫理学<1>』、岩波書店、2007年
  • 和辻哲郎著『風土 人間学的考察』、岩波書店、1979年

『風土 人間学的考察』要旨・要約、感想とレビュー

7件のコメント

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