『我と汝(ブーバー)』の要旨・要約、感想とレビュー

『我と汝(ブーバー)』の要旨・要約、感想とレビュー

『我と汝』の基本情報

書籍名:我と汝
原題:Ich und Du
著者名:マルティン・ブーバー
翻訳者名:植田重雄訳
発行:岩波書店
発行年:1923年(1979年邦訳初版発行)

『我と汝』のキーワード

カテゴリ:哲学
キーワード:西洋思想、存在論、宗教哲学

『我と汝』のレビュー

「合理性を追求した…」、「最も効率的な…」などという表現は、現代の現代性を象徴するものであるかのように語られることが多い。しかしその表現が思想史上「現代的」であったのは、遅くとも20世紀の前半までの話である。近代の文明が急速に進展していた100年前のヨーロッパで、その「合理的」社会に警鐘を鳴らした思想家がいた。

彼の名はマルティン=ブーバー。ユダヤ教の宗教学者である。個人の生成の背後には二者関係がある。個人は、ただ1人では個人にはなり得ない。出版から約100年を経てもなお、彼の言葉は、鋭く、そして暖かく私たちの社会を包み込む。

ハイデガーやレヴィナスなどの20世紀の西洋存在論に多大なる影響を与えた本書は、現代思想に関心のある人全てに贈りたい一冊である。

『我と汝』の要旨・要約

万物の根源は、<わたし−あなた>の関係である。人間の経験は、自らと向いあう者と生々しく接する体験に端緒を持つ。そのとき感じられる<あなた>は、決して対象として認識されるわけではなく、ただその存在の全てを感じられるだけである。この<あなた>の究極の形が「神」と呼ばれる他者である。この<わたし−あなた>の関係から、<わたし>が<あなた>から分離して個人たる<わたし>が生起し、万物を対象として<それ>とみなす<わたし−それ>関係が打ち立てられる。私たちの「合理的な」文明は、この関係を結ぶことで始まるのである。しかし近代の「合理的」文明は、自らの母胎であるはずの<わたしーあなた>関係を軽視してしまっている……。

『我と汝』への感想

本書を執筆したのはマルティン・ブーバーというユダヤ人思想家であるが、彼の思想はユダヤ人社会を超えて全世界を覆い尽くしていると言っても過言ではない。<わたし−あなた>関係についての具体的な記述は当時の「未開社会」での言語活動の記録に基づいているし、神に関する記述ではインド思想や中国思想にも触れられている。
ブーバーは、<わたし−あなた>関係は世界の全てを覆うと主張したが、その主張は抽象的な思弁の次元に留まることなく、社会の現実に深く根ざしている。

『我と汝』と関連の深い書籍

『我と汝』と関連の深い「西洋思想」の書籍

  • イマヌエル=カント著・篠田英雄訳『道徳形而上学原論』、岩波書店、1976年
  • ハンナ=アーレント著・志水速雄訳『人間の条件』、筑摩書房、1994年

『我と汝』と関連の深い「存在論」の書籍

  • エマニュエル=レヴィナス著・熊野純彦訳『全体性と無限 上・下』、岩波書店、2005-2006年
  • 西田幾多郎著・上田閑照編『西田幾多郎哲学論集<1>場所・我と汝他六篇』、岩波書店、1987年
  • 和辻哲郎著『倫理学<1>』、岩波書店、2007年

『我と汝』と関連の深い「宗教哲学」の書籍

    • シモーヌ=ヴェイユ著・冨原眞弓訳『重力と恩寵』、岩波書店、2017年

『重力と恩寵』の要旨・要約、感想とレビュー

  • セーレン=キェルケゴール著・斎藤信治訳『死に至る病』、岩波書店、1957年
  • フランツ=ローゼンツヴァイク著・村岡晋一, 細見和之, 小須田健共訳『救済の星』、みすず書房、2009年
  • ヘルマン=コーヘン著・村上寛逸訳『純粋意志の倫理学』、第一書房、1933年
  • ルートヴィッヒ=フォイエルバッハ著・船山信一訳『キリスト教の本質』、岩波書店、1965年

7件のコメント

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  2. ピンバック: 【実存に先立つ他者の声を聞け】『存在の彼方へ(レヴィナス)』要旨・要約、感想とレビュー | 【OLUS】オンライン図書館

  3. ピンバック: 『存在と時間』要旨・要約、感想とレビュー | OLUS

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  7. ピンバック: 『重力と恩寵』の要旨・要約、感想とレビュー | オンライン図書館

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