『キリスト者の自由(ルター)』要旨・要約、感想とレビュー

『キリスト者の自由(ルター)』要旨・要約、感想とレビュー

『キリスト者の自由』の基本情報

書籍名:新訳 キリスト者の自由 聖書への序言
著者名:マルティン・ルター
翻訳者名:石原謙
発行:岩波書店
発行年:1955年

『キリスト者の自由』のキーワード

カテゴリ:哲学
キーワード:西洋思想、宗教哲学

『キリスト者の自由』のレビュー

皆さんは、キリスト教の十字架の意味をご存知だろうか。諸説あるそうだが、一般的には恵みと試練の象徴とされている。神は私たちに恩恵をもたらすと同時に、試練を課す。その二律背反を統合してみせるところに、神の神聖があるとされている。

『キリスト者の自由』を著したマルティン・ルターもまた、神によって統一される二律背反を説いた。曰く、「キリスト者は全ての者の上に立つ自由な君主」であると同時に「すべての者に奉仕する僕」(いずれも本書p13)であるという。その矛盾を統合するキリスト者とは何か。今なお読み継がれているキリスト教神学の古典にして、宗教改革へと社会を導いた歴史的著作を、ぜひご覧いただきたい。

『キリスト者の自由』の要旨・要約

身体の活動がどうであれ、それは魂の状態にはなんら関係しない。そして、キリスト者の魂が所有するのは神の言葉だけであり、魂が従うべきは神への信仰のみである。

神に対して信仰という形の契約を果たすことによって、私たち人間は罪から解放される。キリストの義心が、私たちの罪を赦すからである。かくして人間は善となり、自由になる。このことに至上の喜びを得た人間は、神を愛し、神と同じように振る舞おうとする。そこで人間は一人のキリストとして、自分がキリストから享けたような愛を他人にもたらすようになる。

このとき人は、罪から解放された自由な善人になると同時に、他人に対して尽くす僕となるのである。

『キリスト者の自由』への感想

本書は一貫してキリスト者について記されているが、キリスト教における愛とユダヤ教における愛は好対照をなす。

こちらの記事では、高名なユダヤ教神学者としてマルティン・ブーバーを紹介した(偶然にも、ファーストネームがルターと同じである)。彼が説く愛は、徹底して二者的(対話的)関係であった。一方のルターは、愛を合一として捉えている。キリストから愛を享けたキリスト者が、一人のキリストとして振る舞うようになるとされていることから、その事実はよくわかるだろう。

ルターが神との合一を重んじる背景には、魂の身体に対する優位性という伝統的な価値観がある。身体は神と人間との断絶を赤裸々に示すが、魂はその二者を繋ぐ。人間の本性は魂に由来し、その魂は信仰を介して神へと至りうる。一方でユダヤ教においては、むしろ実践が奨励されている。旧約聖書の「出エジプト記」や「民数記」には、イスラエルの民がなすべき行為が延々と綴られている。

合一と分離。魂と実践。矛盾を統一せしめる神の僕は、皮肉にも分断されてしまっている。あるいは神は、この事態こそ人間に課した試練だとでも言うのだろうか。

『キリスト者の自由』と関連の深い書籍

『キリスト者の自由』と関連の深い「西洋思想」の書籍

  • スミス著・水田洋;杉山忠平訳『国富論 1〜3』、岩波書店、2000-2001年
  • ペイン著・小松春雄訳『コモン・センス 他三篇』、岩波書店、2005年
  • ホッブズ著・角田安正訳『リヴァイアサン 1・2』、光文社、2014-2018年
  • ルソー著・桑原武夫;前川貞次郎訳『社会契約論』、岩波書店、1954年
  • ロック著・加藤節訳『完訳 統治二論』、岩波書店、2010年

『キリスト者の自由』と関連の深い「宗教哲学」の書籍

  • ヴェイユ著・冨原眞弓訳『重力と恩寵』、岩波書店、2017年

『重力と恩寵』の要旨・要約、感想とレビュー

  • ブーバー著・植田重雄訳『我と汝・対話』、岩波書店、1979年

『我と汝(ブーバー)』の要旨・要約、感想とレビュー

  • フォイエルバッハ著・船山信一訳『キリスト教の本質』、岩波書店、1965年
  • レヴィナス著・熊野純彦訳『全体性と無限 上・下』、岩波書店、2005-2006年

『全体性と無限』要旨・要約、感想とレビュー

  • ローゼンツヴァイク著・村岡晋一, 細見和之, 小須田健共訳『救済の星』、みすず書房、2009年

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