目次
『永遠平和のために』の基本情報
書籍名:永遠平和のために
著者名:イマヌエル=カント
翻訳者名:宇都宮芳明
発行:岩波書店
発行年:1985年初版発行
『永遠平和のために』のキーワード
カテゴリ:哲学
キーワード:西洋思想、政治哲学
『永遠平和のために』のレビュー
国家間の平和条約がどれだけ脆い薄氷の上にあるかは、2度の世界大戦を経験した人類ならば容易に理解できるだろう。
だが、戦争という行為が20世紀に比べれば小さな規模で行われていた18世紀末という時代に、平和条約という名の休戦協定の脆弱性を憂い、平和論に関する小論を著した思想家がいた。その人こそ、今や誰もが知るところである、イマヌエル=カントである。
カントは、1795年に交わされたフランスとプロイセンとの間のバーゼル平和条約に不信感を抱き、本書を執筆したとされている。本書の中でカントは、「一時的な平和」と「永遠平和」を区別し、後者を実現するための手順を極めて簡潔に示した。
本書は、後の国際連合が設立される際の思想的な地盤となった。執筆から200年以上を経てもなお、国際社会の平和の根幹はカントのこの思想にある。日中、日韓、日米、中米、中韓など、あらゆる国家情勢が緊迫している今だからこそ、ぜひ読んでいただきたい一冊である。
『永遠平和のために』の要旨・要約
2度と戦争状態に陥らない永遠平和の状態が実現されるためには、まず以下の6つの条件が必要である。
- 休戦協定に過ぎない平和条約の禁止
- ある国家が他国家を支配することの禁止
- 常備軍の将来的な撤廃
- 国家の対外紛争の際の国債の発行の禁止
- 他国への暴力的な干渉の禁止
- 戦争中の、敵国の権利を著しく貶める行為の禁止
また、上記の条件が満たされたのちには、以下の三つの行動が果たされなければならない。
- 共和制の確立
- 自由な諸国家の連合制度の確立
- 普遍的な友好権の確立
これら全てが果たされたのちに、永遠平和が到来する。
『永遠平和のために』への感想
「要旨・要約」の項で触れた内容について、1点補足しておきたいことがある。共和的体制(共和制)と民衆的体制は全く異なっており、民衆的体制は、永遠平和のために断固として棄却されなければならないということである。
そもそも、民衆的体制は国家の形態の一つであるのに対して、共和的体制は統治の形態の一つである。民衆的体制においては、市民社会を構成する全員が支配権を持つ。共和的体制においては、統治権と立法権が分離されている。
そして、民衆的体制においては、必然的に専制(共和制とは逆に、統治権と立法権が一体化している状態)になってしまう。社会の構成員全員が統治権を持っているため、ある人が統治権を行使した際に、他の人がそれを拒否できなくなる。
結果、永遠平和の元に保証されるべき個人の自由が損なわれる。したがって、民衆的体制は棄却されなければならず、統治権を握る人は限定された少数である必要がある。
実際、世界史において、王政から革命によって直接民主制=民衆的体制になった国家は、大抵専制に陥っている(革命後のフランスなど)。民主制が必ずしも民主的ではないという可能性について、私たちはもう少し自覚的であるべきかもしれない。
『永遠平和のために』と関連の深い書籍
『永遠平和のために』と関連の深い「西洋思想」の書籍
- カント著・篠田英雄訳『判断力批判 上・下』、岩波書店、1964年
- カント著・中山元訳『道徳形而上学の基礎づけ』、光文社、2012年
- カント著・中山元訳『純粋理性批判1〜7』、光文社、2010-2017年
- ルソー著・中山元訳『人間不平等起源論』、光文社、2008年
- ミル著・斎藤悦則訳『自由論』、光文社、2012年
『永遠平和のために』と関連の深い「政治哲学」の書籍
- スミス著・水田洋;杉山忠平訳『国富論 1〜3』、岩波書店、2000-2001年
- ペイン著・小松春雄訳『コモン・センス 他三篇』、岩波書店、2005年
- ホッブズ著・角田安正訳『リヴァイアサン 1・2』、光文社、2014-2018年
- ルソー著・桑原武夫;前川貞次郎訳『社会契約論』、岩波書店、1954年
- ロック著・加藤節訳『完訳 統治二論』、岩波書店、2010年
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