見せかけの同一を越えてー『差異と反復(ドゥルーズ)』要旨・要約、感想とレビュー

見せかけの同一を越えてー『差異と反復(ドゥルーズ)』要旨・要約、感想とレビュー

『差異と反復』の基本情報

書籍名:差異と反復 上・下
著者名:ジル=ドゥルーズ
翻訳者名:財津理
発行:河出書房新社
発行年:2007年

『差異と反復』のキーワード

カテゴリ:哲学
キーワード:西洋思想、存在論

『差異と反復』のレビュー

私たちの社会の大部分は何らかの「同一性」によって成り立っている。教育においては自己同一性を養うよう求められ、社会に出れば行動の首尾一貫性が求められる。もっと視点を広く取れば、資本主義の原理そのものも同一性の原理(資本から新しい資本が常に産出されるシステム)である。

私たちはこの同一性の原理が正しいことを当たり前のように思っているが、果たしてそうだろうか。誰にだって表と裏がある。人間らしさはむしろ、同一性の原理の外側にあるはずである。にもかかわらず、多面的な人間らしさを抹消し「1人の」自分として生きることが社会では求められている。

こんな社会に生きにくさを感じている人は、ぜひ本書『差異と反復』を読んでみてほしい。同一性の原理の背後には永遠なる差異の反復があり、同一性は反復の運動によって構成されたシミュラークル(見せかけ)に過ぎない。読者のみなさんが、20世紀フランスを代表する知の巨人・ドゥルーズの暖かい言葉に何らかの救いを感じてもらえれば幸いである。

『差異と反復』の要旨・要約

プラトン哲学における主要なテーゼは、「イデアは差異なく反復される」ということであった。そこで概念は、同一の物同士の間で差異を持つことなく永続的に反復されることになっていた。

ところがこの哲学では、概念がいかにして創造されるかという問題を語ることはできない。概念の創造を語るために、新たな哲学は「差異のある反復」について考えなければならないのである。

差異のある反復は行為における反復である。「同じ」行為が反復されるとき、行為がなされる状況に応じて、「同じ」行為に差異が生じる。行為が反復される度に差異が創造される。あらゆる概念が、思想が、文化が、この反復の運動から生成されるのである。

『差異と反復』への感想

正直、こんなにもレビューが書きにくかった書籍は初めてであった。河出書房新社から本書の邦訳を上梓された財津理先生も仰っているが、本書は読者に謎解きを要求している。哲学書である本書は、同時にミステリー小説でもある。普通に読み進めていたはずなのに、いつの間にか問いが「反復」され、同一であるはずの表現に「差異」を感じてしまっていた。

レビュアーとして私にできるのは、ドゥルーズが織り成した謎を謎のまま読者のみなさんに投げかけることだけである。「現代の世界は、もろもろの見せかけの世界である」(本書上巻、p12)と断じるドゥルーズの思想世界の深みは、読者のみなさん自身によって体験される他ない。文庫版は読みやすい装丁になっているので、ぜひ一度手にとって、ドゥルーズ思想の謎に触れていただければと思う。

『差異と反復』と関連の深い書籍

『差異と反復』と関連の深い「西洋思想」の書籍

  • プラトン著・藤沢令夫訳『パイドロス』、岩波書店、1967年

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2件のコメント

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