『裸性(アガンベン)』要旨・要約、感想とレビュー

『裸性(アガンベン)』要旨・要約、感想とレビュー

『裸性』の基本情報

書籍名:裸性
著者名:ジョルジョ=アガンベン
翻訳者名:岡田温司・栗原俊秀
発行:平凡社
発行年:2012年

『裸性』のキーワード

カテゴリ:哲学、美学
キーワード:、衣服

『裸性』のレビュー:裸であるとは何か

ジョルジョ=アガンベン。イタリアの哲学者にして美学者である彼は、ハイデガーやベンヤミン、フーコーらから思想的影響を受け、独自の政治的・美学的思想を発表し続けている。

彼の思想の中でも有名なのが「ホモ・サケル」だろう。国家的秩序から排除され、逆説的に国家のあり方を可能にしている人々__ホモ・サケル__は、「剥き出しの生」を生きている、とアガンベンは主張している。

だが、そもそも剥き出しであるとはどういうことだろうか。私たちは、衣服を着ていない状態を裸と考えているが、私たちにとって「剥き出しであること=裸であること」は何を意味しているのか。

本書『裸性』は、「ホモ・サケル」を考察する上で不可欠になる「裸」を論じた論文集である。本書を読めば、シャワールームの鏡に映った自分の裸が、別の仕方で見えてくるだろう。

『裸性』の要旨・要約:裸は出来事である

「裸性」とは、「裸であること、剥き出しであること」を意味する形容詞 “nudo” が名詞化された言葉である。本書所収のエッセイ「裸性」ではこの「裸」が主題として論じられているが、そもそも裸であるとはどういうことなのか。

普通、裸とは衣服のない状態を指すと考えられている。では、衣服を纏わない女性100人を並べれば、そこには純然たる裸性が露呈するのだろうか?

この問いを考察するため、実際に裸の女性(透明のストッキングをまとっているが、見ただけではわからない)100人を並べる美術的実験が、2005年ベルリンにて行われた。

しかし、結果は意に反するものだった。そこにあるのは裸の集積であるはずなのに、純然たる裸性は、その場に現れなかったのである。

衣服を脱いだ状態があるだけでは、そこに裸性は現れない。では、裸形はどこに現れるのか?

ヨーロッパの伝統的な文化において、裸は神学的な象徴として機能している。衣服が神の恩寵であるとすれば、裸は人間の本性を表している、ということである。

聖書によれば、この裸は初めからあったものではなく、アダムとエヴァが原罪を得た結果生まれたとされている。つまり、「衣服を着ていない」という状態が、神からの恩寵を失って楽園から追放されたことで、「神の恩寵を剥奪された」という出来事を意味するようになったのである。

裸の根源が、アダムとエヴァの楽園追放にあるとすれば、裸の本質は状態ではなく出来事であると言える。

衣服が剥ぎ取られ、庇護されるべき対象が無惨に晒されるようになる。この出来事の中にこそ「裸性」が現れる。2005年にベルギーで行われた実験において裸性が現れなかったのは、「衣服が剥がれる」という出来事を欠いていたからに他ならない。

『裸性』への感想:裸体の超越性

「裸である」のではなく、「裸になる」のだ__アガンベンのエッセイ『裸性』の核となる主張は、この一言でまとめられる。

仮にアガンベンの主張が正当であるならば、私たちの眼前に現れる裸体は、本当の意味で「裸」であるわけではない。裸は出来事であるが、裸という出来事は一瞬にして完遂され、いざ私たちの目の前に現れた時には、その出来事の痕跡しか残らないからである。

そして私たちは、裸形の痕跡のみを残した裸体に視線を集める。裸体に集められた視線は、その身体を「裸にしよう」とする。

小さくまとめられた衣服の下はどうなっているのか、あの部分を角度を変えて見るとどうなるのか、長い髪に隠された首元はどのような匂いがするのか……。

様々な問いが、裸体を見る視線に凝縮され、裸体に照射される。その度に、裸体はフォルムを変えながら、私たちに別の問いを喚起する。

裸は性的かもしれないが、静的な状態ではない。裸性は常に不在として現れ、私たちの好奇心を煽り続ける。裸体が神秘的な宗教画のモチーフになっているのは、ひとえに裸体が私たちにとって超越的な現れ(常に私たちの欲望を駆り立てるもの)であり続けているからなのだろう。

『裸性』と関連の深い書籍

  • アガンベン著:上村忠男訳『身体の利用——脱構成的可能態の理論のために』、筑摩書房、2009年。
  • アガンベン著:上村忠男訳『例外状態』、未来社、2007年。
  • アガンベン著:上村忠男訳『言葉と死——否定性の場所にかんするゼミナール』、未来社、2007年。
  • アガンベン著:岡田温司・多賀健太郎訳『開かれ——人間と動物』、平凡社、2011年。
  • アガンベン著:岡田温司・岡本源太訳『事物のしるし』、筑摩書房、2019年。
  • アガンベン著:高桑和巳訳『ホモ・サケル——主権権力と剥き出しの生』、以文社、2007年。
  • 上村忠男著『アガンベン——《ホモ・サケル》の思想』、講談社、2020年。
  • マリー著:高桑和巳訳『ジョルジョ=アガンベン』、青土社、2014年。

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