私は独りではない|『デカルト的省察(フッサール)』要旨・要約、感想とレビュー

私は独りではない|『デカルト的省察(フッサール)』要旨・要約、感想とレビュー

『デカルト的省察』の基本情報

書籍名:デカルト的省察
著者名:エトムント=フッサール
翻訳者名:浜渦辰二
発行:岩波書店
発行年:2001年

『デカルト的省察』のキーワード

カテゴリ:哲学、近代、西洋思想、存在論
キーワード:超越論的現象学志向的関係超越論的<我><他我>間主観的地平

『デカルト的省察』のレビュー

現象学。

それは、通常の自然科学のように客観的な知から主観的な知を演繹するのではなく、主体に対する現象(主観)の根底を分析し、その根底から客観的な知を導出しようとする哲学・心理学の方法論である。

本書の著者フッサールはこの現象学の直接の始祖である。彼は、「我思うゆえに我あり」を宣言したデカルトの哲学の方法論を基礎に、主観の根底から客観・普遍へと至るための「超越論的現象学」を提唱した。

「今、ここ」に生きているちっぽけな<私>から、世界の無限遠の果てを包み込む普遍的な知が生まれるとき、精神の「神」性の叫び声が響き渡る。

現象学について知りたい人、フッサールに興味がある人、哲学・心理学に興味がある人には、ぜひ一度手にとってほしい歴史的大作である。

『デカルト的省察』の要旨・要約

本書の目的は、デカルトが構想した「絶対的な基礎づけに基づく普遍的な学としての哲学」の可能性を、超越論的な現象学によって開くということである。

この目的を果たすために、まずデカルトが着目した超越論的な<我>(「我思うゆえに我あり」の<我>)を再注目する必要がある。

この世界の<私>に対する現象は、ひとまず<我思う>の構造の中で捉えられる。つまり現象とは、この<私>が、何かに対して知覚的・認識的に接合しているという関係の現れなのである。この関係を志向的関係と呼ぶ。

デカルトが指摘した超越論的な<我>は、この志向的構造の極として構成される。私への現象は様々な志向的関係の総体であるが、その関係のいずれにも関わっている項が1つ存在しており、その項が<我>なのである。

ところで、この<我>と志向的関係を形成する項の中に、<他我>として構成される項がある。

<他我>とは、文字通り他者の<我>である。<我>が自分と他者の身体的な関係(共感)をとり結ぶことによって、<我>の別様なあり方としての<他我>が構成される。

この<他我>と<我>は、志向的構造の集積として形成される現象(現前)を共有しており、その点で単一の世界を共有していることになる。

こうして<我>は、間主観的地平の中の存在となり、客観性へと開かれるのである。

『デカルト的省察』への感想

現象学が抱える重大な問題の一つとして、「他我問題」がある。

この<私>が感じていることと、目の前の他人が感じていることは質的に異なっている。しかしながら私たちは、ある程度共有される感覚があることを自明として生活できている。

感覚の共有についての自明性が揺るぎないものであるならば、<私>と<他我>との間で感覚の共有が行われなければならないが、そんなことはいかにして可能になるのか?

この「他我問題」は、学問分野を超えて広く論じられてきた。例えば『アフォーダンスの心理学 生態心理学への道』を著したエドワード・S・リードは、主観と客観の垣根を乗り越える生態心理学の知見を利用して他我問題を根底から覆そうとした(詳しくは以下の記事を参照してほしい)

もちろん、現象学を世に広めたフッサール自身もこの問題には強い拘りを持っていて、『間主観性の現象学 その方法』という長大な著作(邦訳文庫版で全3巻)をわざわざ執筆しているほどである。

基本的にフッサールは、自己と他者が知覚構造の共有する=共感する(「共に」「感覚する」という原義的な意味を想起してほしい)ことによって他我問題は解消され、間主観的地平が可能になると考えていた。

フッサールの他我問題に対する捉え方を正しく理解するためには、自己と他者の間で共有される知覚構造の仕組みを詳細に理解する必要がある。

かなり数学的な知識が要求されるが、興味のある人はぜひ『イデーン』など若き日のフッサールの著作に手を伸ばしてほしい。

『デカルト的省察』と関連の深い書籍

『デカルト的省察』と特に関連の深い書籍

    • デカルト著:谷川多佳子訳『方法序説』、岩波書店、1997年
  • デカルト著:山田弘明訳『省察』、筑摩書房、2006年
  • フッサール著:立松弘孝ほか訳『論理学研究Ⅰ〜Ⅳ』、みすず書房、2015年
  • フッサール著:谷徹訳『内的時間意識の現象学』、筑摩書房、2016年
  • フッサール著:長谷川宏訳『現象学の理念』、作品社、1979年
  • フッサール著:浜渦辰二・山口一郎訳『間主観性の現象学 その方法Ⅰ〜Ⅲ』、筑摩書房、2012-2015年
  • フッサール著:渡辺二郎・立松弘孝ほか訳『イデーンⅠ〜Ⅲ』、みすず書房、1979-2010年

『デカルト的省察』と関連の深い「存在論」の書籍

    • ハイデガー著:細谷貞雄訳『存在と時間 上・下』、筑摩書房、1994年
    • ライプニッツ著:谷川多佳子訳『モナドロジー 他二篇』、岩波書店、2019年

2件のコメント

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  2. ピンバック: 『声と現象(デリダ)』要旨・要約、感想とレビュー | 【OLUS】オンライン図書館

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