『今という驚きを考えたことがありますか』の基本情報

書籍名:今という驚きを考えたことがありますか マクタガートを超えて
著者名:大澤真幸・永井均
発行:左右社
発行年:2018年

『今という驚きを考えたことがありますか』のキーワード

カテゴリ:哲学、西洋思想、分析哲学
キーワード:時間の非実在性、A系列、B系列

『今という驚きを考えたことがありますか』のレビュー

時間は実在しない。

今から約100年前、イギリスの分析哲学者だったマクタガートが、完璧な論理によってこの不可思議な命題を証明してしまった。

以後、現在に至るまで、この命題を根底から覆す主張に成功した者はいない。

しかし常識的に考えて、私たちは時間の中に生きている。マクタガートの証明と、私たちの実感とのギャップを埋めるにはどうすればいいのか。

本書の著者である大澤と永井は、マクタガートに出逢ってしまった者なら誰しもが直面するこの問題を、

<私>=現在

という視点から解釈し、新たな「時間の実在論」を唱えている。「時間ってなんだろう?」と疑問に思ったことがある人に、ぜひおすすめしたい一冊である。

『今という驚きを考えたことがありますか』の要旨・要約

マクタガートの「時間の非実在性」の要旨・要約

時間を表現する手段には、「過去・現在・未来」によって成り立つ「A系列」と、「より前、より後」によって成り立つ「B系列」が存在する。

A系列の例:

  • 「彼はかつて小学生だった」(過去)
  • 「彼は今日、本を読んでいる」(現在)
  • 「パリオリンピックは、まだ開催されていない」(未来)

B系列の例:

  • 「アメリカ独立戦争が、フランス革命より前に起きた」(より前)
  •  「アメリカ独立戦争は、インカ帝国滅亡後に起きた」 (より後)

時間の本質はA系列によってのみ表現できる。

時間の本質とは変化であり、変化とは、同一の命題の真理値(その命題の真偽)の変化を指す。B系列の命題の真理値は変化しないが、A系列の命題の真理値は変化する。

A系列の命題において、過去・現在・未来は互いに両立不可能である(例:過去であり現在である出来事は存在しない)。

しかし、ある出来事が「現在である」とき、その出来事について「未来だった」、あるいは「過去となるだろう」と言うことができる。

したがって、その出来事は過去・現在・未来の全ての性質を持つ。

この性質は、過去・現在・未来が両立できないという時間の性質に矛盾する。

以上から、A系列を本質とする時間は実在しない。

(補足:ある出来事に対して、「今現在である」「かつて未来だった」「やがて過去になる」というように、過去・現在・未来を両立させることができるという反論があるかもしれない。

しかし、この反論は「かつて」→「今」→「やがて」という時間の流れを証明の中に入れてしまっている。今証明したいのは時間の実在性なので、時間の流れを証明に入れることはできない。)

大澤・永井の「時間の実在性」の要旨・要約

マクタガートの証明のポイントの中の、「現在と過去の両立不可能性」は反駁できる。

「現在」とは、出来事の観察者である<私>にとっての「現在」である。

「彼は今日、本を読んでいる」という命題は、「今日」が<私>にとって「現在」であることによって真と判定される。

しかし、<私>が「現在」として観測する出来事は全て「過去」である。<私>が自分自身の現在の姿を鏡で確認するとき、その姿は数秒前の過去の姿に他ならない。

したがって、<私>にとっての「現在」は全て「過去」である。

以上から、ある出来事において現在と過去は両立できる。ゆえにマクタガートの証明は退けられる。

『今という驚きを考えたことがありますか』への感想

マクタガートによる証明の限界は、私たちの言語の限界である。

大澤と永井による「時間の実在性」の本質は、<私>にとっての現在が過去と重ね合わさっているという点にあった。

現在と過去が両立可能になれば、確かにマクタガートの証明に対抗できる。しかし、マクタガートに対して、徹底して論理的な反証を企てようとすると、言語と論理の壁が立ちはだかってくる。

大部分の言語の基本は現在形である。英語を習ったことのあるみなさんならわかるだろう。現在形が基本にあって、その変化として過去形や未来形が登場する。

ところが、大澤と永井の指摘によれば、この現在に過去が重なっているということになる。そのような構造を持つ現在を表現する言語が、一体どこにあるのだろうか?

残念ながら、私たちの言語表現は、全ての基本を現在形に置かねば成立しない。マクタガートの証明になんら不備はない。不備があるのは、実は私たちの言語の基盤の方なのである……。

『今という驚きを考えたことがありますか』と関連の深い書籍

『今という驚きを考えたことがありますか』と関連の深い「西洋思想」の書籍

  • ドゥルーズ著:財津理訳『差異と反復 上・下』、河出書房新社、2007年
  • ベルクソン著:中村文郎訳『時間と自由』、岩波書店、2001年
  • レヴィナス著:合田正人訳『存在の彼方へ』、講談社、1999年

『今という驚きを考えたことがありますか』と関連の深い「分析哲学」の書籍

  • ウィトゲンシュタイン著:丘沢静也訳『論理哲学論考』、光文社、2014年
  • 永井均著『<私>の存在の比類なさ』、講談社、2010年
  • 永井均著『<私>のメタフィジックス』、勁草書房、1986年
  • フレーゲ著・野本和幸;黒田亘訳『フレーゲ著作集<4>哲学論集』、勁草書房、1999年
  • ラッセル著:高村夏輝訳『論理的原子論の哲学』筑摩書房、2007年
  • Russell; Whitehead: Principia Mathematica Volume One ~ Three, Merchant books, 2009

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