『なぜ世界は存在しないのか(マルクス=ガブリエル)』要旨・要約、感想とレビュー

『なぜ世界は存在しないのか(マルクス=ガブリエル)』要旨・要約、感想とレビュー

『なぜ世界は存在しないのか』の基本情報

書籍名:なぜ世界は存在しないのか
著者名:マルクス・ガブリエル
翻訳者名:清水一浩
発行:講談社
発行年:2018年

『なぜ世界は存在しないのか』のキーワード

カテゴリ:哲学
キーワード:西洋思想、存在論

『なぜ世界は存在しないのか』のレビュー

世界は存在しない。

いきなりこんなフレーズを本屋で見つけたら、思わず立ち止まってしまうだろう。私もそうだった(そして気がついたら本書を購入していた)。そして疑問に思うはずだ。「いやいや、じゃあ私たちはどこに存在してるのさ」と。

驚くべきことに、本書の著者である若き哲学者マルクス・ガブリエルは、この「私たちはどこに存在しているのか」という問題からスタートして、「世界は存在しない」という結論を導き出している。

どんな複雑な議論を辿ったのかと思いきや、ロジック自体は非常にシンプルである。哲学用語も最小限しか使われておらず、一見して誰にでも理解できるようである。だからこそ、彼の議論は非常に力強く読み手を引きつける。

2009年に史上最年少(29歳)でドイツの名門ボン大学の哲学正教授に就任した天才哲学者が描く、全く新しい実在論の鮮やかさを、ぜひ読者の皆さんにも体感してもらいたい。

『なぜ世界は存在しないのか』の要旨・要約

「存在」と言われているものは全て、何らかの背景のもとにのみ存在する。そして胎児が胎内環境によってそのあり方を規定されているように、存在が持っている意味は、存在に固有の背景によって規定されている。そこで、本書ではこの背景を「意味の場」と呼ぶ。存在の「意味」が規定される「場」という意味である。

ところで、世界とはあらゆる対象を包摂するものである。あらゆる対象は全て固有の意味の場のもとで存在するので、世界とは全ての意味の場にとっての意味の場、つまり存在を規定する全ての背景を包み込む背景ということになる。

だが、世界が存在するとすれば、世界もやはり何らかの背景(意味の場)においてのみ存在しているはずである。ゆえに世界にとっての意味の場が存在しなければならないが、この事態は世界の性質に矛盾している。世界はその内部に全ての意味の場を含んでいるのであり、定義上世界の外部には意味の場があってはならないからである。

したがって世界は存在しない。また、全ての意味の場を包摂する世界が存在しないので、意味の場は事実上無限に存在し、意味の場に存在する対象も無限に存在できる。目の前のスマホも、あなたが想像した架空の動物も、全て存在する。ただし、世界だけは例外である。

『なぜ世界は存在しないのか』への感想

この記事のレビューで本書の内容を「全く新しい実在論」と紹介したが、ここでは要旨・要約で紹介したガブリエルの議論の新しさを哲学史上有名な議論と比較しながら説明したい。

ガブリエルの「新しい実在論」(哲学のアカデミアでは「新実在論」と呼ばれている)は、まず従来の形而上学・構築主義と異なっている。形而上学では、世界の実在が認められ、世界そのものの構造がしばしば神を頂点として語られている。また構築主義者は、私たちに認識可能な「実体」は(論理的に)構築されているものであって、存在しているわけではないと主張する。

新実在論は、世界の実在を否定しつつ、世界以外の全ての実在を認めている。この点で、形而上学とも構築主義とも異なっている。

またガブリエルの存在論は、スピノザデカルトライプニッツの存在論から区別されている。

スピノザの存在論は一元論(神だけが存在する)、デカルトの存在論は二元論(思惟と延長のみが存在する)、ライプニッツの存在論は多元論(無数のモナドが存在する)であった。一見ガブリエルの立場はライプニッツに近いようだが、ライプニッツはモナドの集合としての世界を認めている点でガブリエルと異なっている。

このように、ガブリエルのシンプルでわかりやすい議論は、意外にも哲学史上においては新鮮な意味を持っているのである。

『なぜ世界は存在しないのか』と関連の深い書籍

『なぜ世界は存在しないのか』と関連の深い「西洋思想」の書籍

  • アクィナス著・稲垣良典訳『在るものと本質について』、知泉書館、2012年
  • アリストテレス著・出隆訳『形而上学 上・下』、岩波書店、1959年
  • ドュンス=スコトゥス著・八木雄二訳『存在の一義性 ヨーロッパ中世の形而上学』、知泉書館、2019年

『なぜ世界は存在しないのか』と関連の深い「存在論」の書籍

  • カンタン=メイヤスー著・千葉雅也他2人訳『有限性の後で:偶然性の必然性についての試論』、2016年
  • グレアム=ハーマン著・岡嶋隆佑他3人訳『四方対象:オブジェクト指向存在論入門』、2017年
  • デカルト著・山田弘明;吉田健太郎;久保田進一;岩佐宣明訳『哲学原理』、筑摩書房、2009年
  • スピノザ著・畠中尚志訳『エチカ−倫理学 上・下』、岩波書店、1951年

『エチカ 倫理学』要旨・要約、感想とレビュー

  • ハイデガー著・細谷貞雄訳『存在と時間 上・下』、筑摩書房、1994年
  • ライプニッツ著・谷川多佳子;岡部英男訳『モナドロジー 他二篇』、岩波書店、2019年

『モナドロジー』要旨・要約、感想とレビュー

3件のコメント

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