目次
『エチカ 倫理学』の基本情報
書籍名:エチカ 倫理学 上・下
著者名:ベネディクトゥス=デ=スピノザ
翻訳者名:畠中尚志
発行:岩波書店
発行年:1951年
『エチカ 倫理学』のキーワード
カテゴリ:哲学
キーワード:西洋思想、形而上学、倫理学
『エチカ 倫理学』のレビュー
スピノザ、デカルト、ライプニッツ。この三人は、同じテーマについて語りながら、それぞれ全く違う立場をとっている。
三人とも、形而上学的な存在論について語っている。スピノザは本書『エチカ 倫理学』で。デカルトは『哲学原理』で。そしてライプニッツは『モナドロジー』で。
スピノザの立場は一元論、デカルトは二元論、ライプニッツは多元論である。要するに、世界の実体を神のみに限定するのがスピノザで、思惟と延長に限定するのがデカルトで、無数のモナド(単子)とみなすのがライプニッツなのである。
何のことやら、と思われたかもしれない。しかし今これらの立場について吟味することは非常に重要である。というのも、存在論は近年さらに盛り上がりを見せている、非常にホットなテーマだからである。近日中に、現代の存在論についての著作のレビューを行いたいと思うので、そちらも参考にしてほしい。
というわけで、読者のみなさんには、現代の存在論を知るためにまず存在論の古典である本書の読解に取り組んでほしいと思う。
『エチカ 倫理学』の要旨・要約
世界の中で唯一実体と呼べるのは、究極の自己原因である神(あらゆる原因に対する原因)のみである。神は無限に属性を持っており、その無限性が神の本質を規定している。そして、自然界のあらゆる個物は、神の持つ属性の一様態である。
人間が認識しうる人間の属性は「思惟」と「延長」であり、それぞれ精神と身体に対応している。思惟の働きは「表象知」、「理性知」、「直観知」に分けられる。
「表象知」は受動的な感覚的経験に基づくもので、この知に支配される限り人間に自由はない。しかし、人間には理性に基づく能動感情がある。この理性こそ人間の本性であり、この本性に従って行動する人間のみが自由になれる。
理性のみに基づいて行動する人間は、理性認識に役立つものを善と判断し、自己のため、そして他人のために欲求する。そうした善の究極こそ、我々を包括する神である。最高善である神は万物に共有される。
また神の認識は「直観知」であり、推論を伴わない。そこで人は神への知的な愛に目覚める。この愛は、自らの根源である神と一体となる神人一体の境地で現れる。最高の智者は、倫理的な徳と神への愛を併せ持つのである。
『エチカ 倫理学』への感想
スピノザの神に対する考え方は、一般に「汎神論」と呼ばれている。自然の全てが神の反映である、とする考え方である。こういう言い方をすると、「ふむ、スピノザはそういう宗教を信じていたのか」と思われるかもしれないが、これは彼の論理的な帰結であって、決して信仰ではない。
そもそも本書はある意味で数学書である。定義→公理→定理→定理の証明という流れで各部の論証が進められている。スピノザの汎神論的な結論も、最初の定義と公理から非常に論理的に導かれている。彼は実はレンズ磨きの職人でもあったのだが、その性格がよく見える緻密な論証である。
その一方で、彼の緻密な論証は思弁的で形式的なレベルを踏み越え、実践的な人間の幸福や倫理に関わっている。だからこそ彼の主張は、単なる主観に陥りやすい幸福論や倫理学とは違う重要性を持っているのである。本書を読んで意味がわからなかったとしても、彼の精神の温もりは十分に感じられるであろう。
『エチカ 倫理学』と関連の深い書籍
『我と汝』と関連の深い「形而上学」の書籍
- アウグスティヌス著・服部英次郎訳『神の国 1〜5』、岩波書店、1982-1991年
- アクィナス著・稲垣良典訳『在るものと本質について』、知泉書館、2012年
- アリストテレス著・出隆訳『形而上学 上・下』、岩波書店、1959年
- ドュンス=スコトゥス著・八木雄二訳『存在の一義性 ヨーロッパ中世の形而上学』、知泉書館、2019年
- デカルト著・桂寿一訳『哲学原理』、岩波書店、1964年
- ライプニッツ著・谷川多佳子;岡部英男訳『モナドロジー 他二篇』、岩波書店、2019年
『我と汝』と関連の深い「倫理学」の書籍
- アラン著・神谷幹夫訳『アラン 幸福論』、岩波書店、1998年
- アリストテレス著・高田三郎訳『ニコマコス倫理学 上・下』、岩波書店、1971-1973年
- ヒルティ著・草間平作訳『幸福論 第1部〜第3部』、岩波書店、1961-1965年
- ラッセル著・安藤貞雄訳『ラッセル 幸福論』、岩波書店、1991年
- レヴィナス著・熊野純彦訳『全体性と無限 上・下』、岩波書店、2005-2006年
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