目次
『神話と意味』の基本情報
書籍名:神話と意味
著者名:レヴィ=ストロース
翻訳者名:大橋保夫
発行:みすず書房
発行年:1996年
『神話と意味』のキーワード
カテゴリ:哲学
キーワード:西洋思想
『神話と意味』のレビュー
17世紀に近代科学が出現して以来、旧来の神話は非科学的な迷信として軽んじられてきた。20世紀以降の人類学の発展に伴って明らかな差別意識は小さくなったものの、いまだに(特に日本人の中では)「神」と名の付くものに対する警戒心は強く残っている。
しかし神話を侮ってはならない。その昔、人類がまだ分析的思考を発展させていない頃、彼らは生き残るために自らの直感を研ぎ澄ます必要があった。その偉大なる直感の集積―すなわち知の集積―が神話なのである。したがってそこには、高度に発達した複雑な構造を持つ文化が宿っている。
こうした神話の構造を独自の方法で分析してみせたのが、20世紀フランスの人類学の巨匠であるクロード・レヴィ=ストロースである。異なる文化同士の間に通底する構造に注目する彼の「構造人類学」は、神話・科学・言語・音楽を鮮やかに統一する。カナダのラジオ番組でのレヴィ=ストロースの語りを編集した、画期的な文化人類学入門を、ぜひご覧いただきたい。
『神話と意味』の要旨・要約
レヴィ=ストロースは幼少の頃から、本来秩序があるところに秩序が見出されていないことを腹立たしく感じていた。このパッションが、彼を非言語文化世界での神話構造の分析に駆り立てた。
神話と近代科学(人文科学も含む)の間に、本質的な断絶などない。発達した科学は、神話を排除するのではなく、むしろ神話の深層構造を明らかにする。そして、科学が発達して神話の本質が明らかになるとき、人間の精神と身体との間の断絶だけだけでなく、人間と他の動物との間の断絶も解消され、知は新たな段階へ到達するだろう。
また、神話は単なる言語ではなく、西洋音楽と類似の構造を持っている。神話は一つ一つの要素に分解しただけでは理解できず、常にその全体像によって理解する必要がある。神話は、それ自体として身体なのである。
『神話と意味』への感想
神話とは、字義通りに捉えれば「神の語り」である。それでは、「神の語り」と「人間の語り」の違いとは何か。
基本的に、人間同士の語りには言語あるいはそれに準じる媒介項が必要である。コミュニケーションをとる双方の間に、なんらかの共有知がなければ人間同士の語りは成立しない。
これに対して神の語りは媒介項を必要としない。なぜなら神の語りは「啓示」と言われ、一方通行であり、気づいたときにはすでに自分に届いているものだからである。
「そんなアホな」と思われるかもしれないが、初対面の人と会うとき、おそらく大多数の人がこの神の語りを聞いている。いわゆる第一印象というものは、人間の言語的な語り以前に成立する神の語りと言っていいだろう。言語によって印象を決める人はいない。むしろ印象から、その人と語るための言語が作られている。
そう考えると、私たちの日常的な生活の至るところに神が宿っていることになる。そして今、人と人との出会い方は極めて多様化している。それぞれの場面で私たちは神と出会い、人間と出会っている。語りは今日も、神と人間との間を踊っている。
『神話と意味』と関連の深い書籍
『神話と意味』と関連の深い「西洋思想」の書籍
- カストロ著・檜垣立哉;山崎吾郎訳『食人の形而上学:ポスト構造主義的人類学への道』、洛北出版、2015年
- ストロース著・荒川幾男訳『構造人類学』、みすず書房、1972年
- ストロース著・大橋保夫訳『野生の思考』、みすず書房、1976年
- ストロース著・川田順造訳『悲しき熱帯 Ⅰ・Ⅱ』、中央公論新社、2001年
- バルト著・花輪光訳『物語の構造分析』、みすず書房、1979年
- フリーマン著・木村洋二訳『マーガレット・ミードとサモア』、みすず書房、1995年
- ブリュル著・山田吉彦訳『未開社会の思惟 上・下』、岩波書店、1991年
- マリノフスキー著・阿部年晴;真崎義博訳『未開社会における性と抑圧』、筑摩書房、2017年
- レリス著・岡谷公二他2人訳『幻のアフリカ』、平凡社、2010年
- Eduardo Vivieiros de Castro, translated by Catherine V. Howard: From the enemy’s point of view, The University of Chicago Press, 2012