はじめに:アウグスティヌスについてわかりやすく解説!

教父アウグスティヌスは、中世ヨーロッパを代表する思想家で、『告白』『神の国』などの著作で知られています。

高校の世界史にも登場するほどの有名人ですが、「具体的にどんな思想なのか?」と聞かれるとなかなか難しいですよね。

アウグスティヌスの思想をはじめとする中世の哲学はキリスト教の文化と密接に関係しているので、キリスト教に馴染みのない私たちには理解しにくい部分があります。

しかし、アウグスティヌスの思想は後世のデカルトやカントにも多大なる影響を与えているので、近代・現代思想を学ぶ上で彼の思想は避けて通れません。

そこでこの記事では、中世最大の哲学者アウグスティヌスの思想について、彼の人生・後世への影響も交えながら解説します!

アウグスティヌスの人生

アウグスティヌスの思想について説明する前に、彼の人生について簡単に紹介しておきます。

アウグスティヌスの人生①:幼少期・青年期のアウグスティヌス

西暦354年、ローマ帝国の属州の1つだった北アフリカの町タガステに生を享けたアウグスティヌスは、教育熱心な母モニカの愛情を受けて育てられました。

学校の勉強にそれほど熱心ではなかった彼は、暇を見てはローマ・ラテン文学の書物を読むようになります。

この読書経験の中で彼は自然とラテン文化の教養を身につけ、同時に愛の快楽に身を委ねて生きる人々の姿に強く引き寄せられるようになりました。

16歳のときに家庭の事情で故郷を離れ、古都カルタゴへやってきたアウグスティヌスは、青年期の情欲を存分に満たしながら、将来出世するべく修辞学・弁論術を熱心に学ぶようになりました。

18歳にして一児の父となったアウグスティヌスは、カルタゴでキケロの書物に出会い、哲学に感化されます。

キケロの書物によって哲学の「愛知」の精神を知ったアウグスティヌスは、知恵とは何か、真理とは何かという問題を探究すべくマニ教・占星術など当時の最先端の学問を旺盛に吸収するようになりました。

アウグスティヌスの人生②:壮年期のアウグスティヌス

マニ教と占星術に傾倒したアウグスティヌスでしたが、やがて両者の主張の信憑性を疑うようになります。

真理を巡って懐疑主義的な態度をとるようになったアウグスティヌスは、あるときイタリア・ミラノの司教だったアンブロシウスの説教を聞いて感銘を受け、キリスト教徒の生き様に強く共鳴します。

キリスト教と衝撃的な出会いをしたアウグスティヌスは、情欲にかまけていた往年の自分と決別し、宗教者として生きる道を選びました。この思想的転換は、アウグスティヌスの「回心」として現代まで語り継がれています。

キリスト教父となったアウグスティヌスは、故郷タガステに帰り、70歳を超える長命を宗教者として全うしました。彼の功績は今なお語り継がれ、彼の故郷の近くにある「聖アウグスティヌス教会」には彼の銅像が建てられています。

アウグスティヌスの思想

さてここからは、アウグスティヌスの思想を5つの特徴にまとめて紹介します。

アウグスティヌスの思想①:人間への関心

私は、私自身にとって謎である。してはならないことだとわかっているのにやめられないことがある。自分で意志しながら、その意志を実行できない自分への謎。

この謎は、自分自身にとって最も大きな謎である。自分という人間の謎への注目を通して、アウグスティヌスの思想が形成されてきました。

アウグスティヌスの思想②:内面・心の重視

人間の本質は内面にある。己を見つめるとき、己の心の内奥を見つめなければならない。

「私がいかなる者であるにせよ、私が私であるその場所、私の心を……、まさにその心の中において私が何者であるか告白する」(『告白録』10巻より)

「当たり前じゃん」と思われるかもしれませんが、アウグスティヌスが「内面を重視せよ」と言うのは、単に「外面より内面が大事だ」というありきたりな主張をしたいからではなく、内面へ深く潜ることによって人間一般に共通する普遍性が開けてくると考えていたからです。

プラトンから強く思想的影響を受けていたアウグスティヌスは、魂(または魂の愛)を人間個人と普遍なる神との通路として捉えていました。それゆえ、真理を目指すためには己の魂に帰る必要があったのです。

アウグスティヌスの思想③:時間論

かつて(ひょっとすると現在も)時間は外界=客観的な世界に流れているものとして捉えられていました。

しかし考えてみれば、「時間が客観的な世界にある」という主張は大変奇妙なものです。時間はどこにでもあるはずなのに、どこを探しても「時間」という実在は見つけられません。

では実際のところ、時間はどこにあるのか。アウグスティヌスは、「時間は人間の心の中にある」と説きます。

心の中で直視して確認できるものは存在する。現在は所与であり、直視で確認できるので、存在する。

また過去は記憶として人間の心の中にあり、心の中で想起されることによって直視できるようになる。したがって、過去も存在する。

未来は期待として人間の心の中にあり、心の中で予測されることによって直視できるようになる。したがって、未来も存在する。

以上のように、過去・現在・未来はそれぞれ人間の心の中で直視され、存在するのだとアウグスティヌスは考えました。

アウグスティヌスの思想④:神と人間との関係

人間が自分自身の内面を見つめるとき、2つのテーマが問題になります。1つは内面の器となる「魂」、もう1つは人間の内面の根源となる「神」です。

この世には普遍なる秩序(例:天体の回転・数学の定義)がある。人間は本質的に有限な存在なのだから、普遍=無限な存在を創造することはできない。

ということは、人間とは異なる普遍者=神がこの世に普遍的な秩序を与え、その中で人間を含む有限な存在を創造したことになる。

ゆえに、自分の内面を見つめ人間の本質に迫ろうとするとき、その問いは人間を創造した普遍者=神へと開かれている。神と良い関係を持つことによって、人間は自らの本質を知るようになる——信仰に篤かったアウグスティヌスは、神と人間との関係についてこのように考えていました。

アウグスティヌスの思想⑤:信仰と理性を求める精神

日本では、宗教的信仰と理性とは対立するものとして考えられる傾向にありますが、アウグスティヌスはむしろ知性によって信仰と理性を統合すべきであると考えていました。

神は普遍者として真理を告げるものである以上、真理を求める人間は自らの理性によって神を求める(信仰する)必要があるからです。

“theology”(神学)と “theory”(理論)が “theo”という共通の接頭語を持つ(共通の語源を持つ)ことからわかるように、信仰と理性の統合を求めるアウグスティヌスの態度はキリスト教社会の伝統的な態度であると言えます。「神を理によって解す」。この知的態度が、中世における哲学の発達を促進したのです。

アウグスティヌスが与えた影響

アウグスティヌスの思想の特徴を概観したところで、彼の思想が後世に与えた影響を整理しておきましょう。

アウグスティヌスが与えた影響①:中世

中世のスコラ学者として有名なアンセルムスは、『モノロギオン』という自身の著作の中で、「アウグスティヌスの教えと異なることは述べない」と記しました。

アンセルムスは、アウグスティヌスと同様に、哲学と神学を区別せず、信仰と理性が総合されるべきであると考えていました。

アウグスティヌスの思想は、その後フランチェスコ会の修道士たちによってアリストテレスの思想と融合して語られるようになります。

この新しいアウグスティヌス—アリストテレス主義の台頭の中で、アリストテレス主義に立っていたトマス・アクィナスがアウグスティヌスの影響を受けるようになりました。

かの有名なアクィナスの『神学大全』には、アウグスティヌスからの影響が少なからずある、というわけです。

アウグスティヌスが与えた影響②:近世(17〜18世紀)

『パンセ』などの著作で知られる近世の大思想家パスカルも、アウグスティヌスの思想に影響を受けていました。実はパスカルもアウグスティヌスと同様に「回心」(ここでは別の宗教からキリスト教に入信すること)の経験があり、人間について深い関心を寄せていたのです。

アウグスティヌスが与えた影響③:近現代(19世紀〜)

近代に入っても、アウグスティヌスへの注目は続きます。

例えば現象学の始祖であるフッサールは、『内的時間意識の現象学』という著作でアウグスティヌスの時間論を時間分析の大家として高く評価しています(『内的時間意識の現象学』については以下の記事をご参照ください)。

またヤスパースは、『偉大な哲学者たち』という著作の中で、アウグスティヌスを内面的思惟を根源まで推し進めた思想家として評価しています。

『存在と時間』で哲学界に深刻な影響を与えたハイデガーも、人間の外面ではなく内面から普遍的な人間の性質に迫ろうとしたアウグスティヌスの姿勢を高く評価していました。

以上のように、アウグスティヌスは人間の内的意識や実存の問題に今日まで巨大な影響を与え続けています。

おわりに:アウグスティヌスの思想のまとめとおすすめ哲学書

この記事では、中世の哲学者アウグスティヌスについて、彼の人生・思想・影響をまとめました。

最後に、彼の思想の大きな特徴についてまとめておきましょう。

  • 自分という人間を深く考察する
  • 人間の内面に注視する
  • 時間は心の中に流れる
  • 人間の内面への考察は、神との関係に通じる
  • 信仰と理性は統合されなければならない

アウグスティヌスに関連の深い書籍

この記事を書くにあたって参考にした書籍

  • 宮谷宣史『アウグスティヌス』、講談社、2004年。
  • 宮谷宣史『人と思想:アウグスティヌス』、清水書院、2013年。

その他のアウグスティヌス関連の書籍

  • アウグスティヌス著:服部英次郎訳『神の国』1〜5、岩波書店、1999年。
  • アウグスティヌス著:服部英次郎訳『告白』上・下、岩波書店、1976年。
  • 出村和彦『アウグスティヌス—『心』の哲学者』、岩波書店、2013年。
  • 稲垣良典『神とは何か—哲学としてのキリスト教』、講談社、2019年。
  • 富松保文『アウグスティヌス—<私>のはじまり』、NHK出版、2003年。

1件のコメント

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