はじめに:トマス・アクィナスの思想についてわかりやすく解説!

トマス・アクィナスは、アウグスティヌスとともに、アリストテレス的哲学とキリスト教神学を総合させた中世最大の哲学者として知られています(アウグスティヌスについては以下の記事をご参照ください)。

しかし、「アクィナスの思想ってどんなもの?」と聞かれると、勉強した経験がある人でもなかなか答えづらいですよね。

そこでこの記事では、トマス・アクィナスの思想について初学者にもわかりやすく解説します!

お時間のない方は稿末の「トマス・アクィナスの思想のまとめ」を、詳しく勉強したい方は「おすすめ参考書」をそれぞれ参照してみてくださいね〜。

トマス・アクィナスの思想の概要と哲学史的意義

まずは、トマス・アクィナスの思想の概要を、哲学史的な観点から整理してみましょう。

この記事の記述は、主に稲垣良典『トマス・アクィナス』(講談社、1999年)に基づいています。詳しく知りたい人はこちらの本も併せて読んでみてください。

 

アクィナスは、中世におけるスコラ学の集大成として位置付けられています。スコラ学とは大学の学問のことで、文法、論理学、弁証法、自然研究、神学、哲学などの学問を含んでいます。

当時多くのスコラ学者が、古代の学問の継承・発展に注力し、これらの学問を研究していました。

それゆえアクィナスも古代の学問・研究者から多くの刺激を受け、特に古代ギリシアにおけるアリストテレス・プラトン、イスラム世界におけるアヴィケンナ・アヴェロエス、それに中世の思想家アウグスティヌスやアンセルムスから多大なる影響を受けました。

伝統的な学問を体系的に整理したアクィナスは、アウグスティヌスやアンセルムスから継承されていた信仰(キリスト教)と理性(哲学)の問題について、「哲学は神学の婢女」という有名な箴言を残しました。

「婢女」と聞くと、まるで哲学が低劣な学問であるかのようですが、アクィナスが言いたかったのはむしろその逆のことです。

事物を神の視点から考察し、神の知へと至る神学が成立するためには、事物をそれ自体の本性において考察する哲学が高度に発達していなければならない。哲学が高尚でなければ、「神学の婢女」にはなり得ない。アクィナスはこう主張して、哲学を高く評価していました。

このようなアクィナスの思想的な臨界点が『神学大全』です。

『神学大全』の中でアクィナスは、あらゆる創造物は第一原因(創造主)たる神から「発出」し、究極的な目的である神に「還帰」する運動の只中にある、と主張しました。アクィナスのこの考え方は、神の名の下に世界理解を総合する思想なので、「神学的総合」であると言われています。

以上が、アクィナスの思想の簡単な概要になります。ここからは、アクィナスの思想の中で特に重要な2つのテーマ「存在」「神」について解説していきたいと思います。

トマス・アクィナスの思想①:存在論

アクィナスは言いました。神とは全ての存在の原因であるがゆえに、神の実体は存在そのものである、と。

私たち一人一人に父と母がいるように、この世全ての存在は、自らが造られた原因を持っています。一方で、造られた存在もまた、別の存在を作る原因として作用する。存在が存在を作り出す。世界は存在を創造する運動によって駆動しています。

だとすれば、既存の存在を造った大元の原因が1つ存在しなければなりません。しかもその根本的な原因は、他の原因とは違って自らの起源を自らの内側に持つ(自分が存在している原因が自分自身である)ような超越的な存在である必要があります。

全ての存在の原因となる超越的な存在には、他の存在から区別できる名が必要になる—そこでアクィナスは、この超越的な存在を「神」と呼んだわけです。

そして、「神」が全ての存在の原因となるならば、「神」は存在という性質を自らの本質=実体としている必要がある。ゆえに、神の実体は存在である。ゆえに、「神は存在する」という命題は明らかに正しい—主語と述語が同一のものを指しているのだから。アクィナスは、以上のようにして神と存在を定義しました。

注意してほしいのが、私たちのような具体的な存在は「存在するもの」であるのに対して、全ての存在の根源である「神」は「存在そのもの」であるという点です。個々の「存在するもの」と、存在の淵源である「存在そのもの」は明確に区別されます。

この区別は、後にハイデガーが『存在と時間』で提唱する「存在論的差異」の問題へと継承されていくことになる非常に重要な問題なので、ぜひ覚えておいてくださいね。

トマス・アクィナスの思想②:神論

アクィナスが『神学大全』の中で取り上げた問題として、存在論と同じく重要なのが神論です。とりわけ、神の存在を5つの方法で証明した「神の存在証明」は非常に有名です。

「ん?存在論のところで神の存在を証明したのに、まだ証明が必要なの?」と思った方、鋭いですね。その通りです。

「神の存在証明」で取り上げられる内容は全て「あらゆる存在にはその根本的原因となる超越的な存在が必要になる」という主張に帰着します。ですから、存在論のところの神論が納得できた方は、再度証明に取り組む必要はありません。

ただ、「全ての存在には原因が必要だ」とは言っても、具体的にどんな場面における根本的な原因として神が働いているのかという疑問は残るでしょう。

神は、一体この世界のどこで根本原因として働いているのか。「神の存在証明」は、5つの例示によってこの問題に答えています。1つずつ見ていくことにしましょう。

神の存在証明(神の具体的な働き)①:運動・変化の原因

全ての運動・変化するものは、その運動・変化の原因を別の存在に求める必要がある。

それぞれの存在の運動・変化の原因を別の存在へと遡及していくと、最終的に自らの運動・変化の原因を自分自身に持つような「第一の動者」へと至る。神とは、この「第一の動者」である。

神の存在証明(神の具体的な働き)②:作動の原因

この世のあらゆる事物は、何らかの作動原因の秩序の中にある。事物Aの作動によって事物Bが作動し、事物Bの作動によって事物Cが作動する、というように。

となると、この世のあらゆる事物の作動の原因となる存在が必要になる。神は、この「第一の作動原因」である。

神の存在証明(神の具体的な働き)③:必然性の原因

この世には、偶然的に存在しているものがある。偶然的に存在しているものとは、存在することもできたし存在しないこともできたが、結果として存在しているもののことを指す。

仮にこの世に偶然的な存在しかないならば、何も存在しない瞬間があったはずである。そして、存在しない瞬間があるならば、その瞬間以後には何も存在しないだろう。あらゆる存在は、存在から生まれるしかないのだから。

しかし、「現在において何も存在していない」という命題は明らかに間違っている。だから「この世に偶然的な存在しかない」という仮定は棄却され、「この世には必然的な存在がある」という命題が導出される。

さて、この必然的な存在は、その必然性をより根源的な必然性から借り受ける必要がある。三平方の定理の必然性がユークリッド幾何学の公理の必然性に由来しているように。

となると、全ての必然性を根拠づける根本的な必然性—自らの必然性の原因を自分自身の中にもつもの—が存在することになる。神は、この「根本的な必然性」である。

神の存在証明(神の具体的な働き)④:究極性の原因

諸々の事物は、何らかの点で比較可能になる。例えば「りんごはみかんより大きい」というように。

「より大きい」という性質があるということは、何か究極に「大きい」ものが存在するということである。究極の「大きさ」があることによって、諸々の事物は「大きさ」で比較可能になる。

比較基準を「大きさ」以外に変えても同じことが言える。例えば「アメリカは日本より人口が多い」というときの「多い」という性質も、究極に「多い」ものが存在することが前提になっている。

このような究極性は、必然性の場合と同様に、その究極性の原因をある超越的な存在から借り受ける必要がある。神とは、この「究極性の原因」である。

神の存在証明(神の具体的な働き)⑤:事物の自然的秩序の原因

自然的な事物は、明確な目的によって秩序立てられた運動をしている。

だとすれば、全ての自然的事物を秩序づける知的存在—自然界の目的の中心をなす根本的な原因—が必要になる。神とは、このような「自然的秩序の原因」である。

おわりに:トマス・アクィナスの思想のまとめとおすすめ哲学書

トマス・アクィナスの思想のまとめ

この記事では、中世最大の哲学者トマス・アクィナスの思想を紹介しました。最後に、アクィナスの思想を簡単にまとめておきましょう。

  • 「神は存在する」。この命題は明らかに正しい。主語と述語が同一のものを指しているからである—神とは、あらゆる存在の原因にして、存在することを実体=本質とするものである。
  • 神は、以下の5つの点で「存在の原因」となっている。
    • 運動・変化の原因
    • 作動の原因
    • 必然性の原因
    • 究極性の原因
    • 事物の自然的秩序の原因

とりあえず、これだけ覚えておけばアクィナスの思想の概要を掴んだことになります。

より詳しく知りたい方は、以下にリストアップした書籍を読みながら、コツコツ学習を進めていきましょう!それでは!!

トマス・アクィナス関連のおすすめ哲学書

この記事を書くにあたって参考にした哲学書

  • 稲垣良典『トマス・アクィナス』、講談社、1999年。

その他のトマス・アクィナス関連の哲学書

  • アクィナス著:稲垣良典訳『在るものと本質について』、知泉書館、2012年。
  • アクィナス著:柴田平三郎訳『君主の統治について—謹んでキプロス王に捧げる』、岩波書店、2009年。
  • アクィナス著:花井一典訳『真理論』、哲学書房、1990年。
  • アクィナス著:山田晶訳『神学大全』Ⅰ・Ⅱ、中央公論新社、2014年。
  • 稲垣良典著『人と思想14—トマス=アクィナス』、清水書院、1992年。
  • 山本芳久著『トマス・アクィナス—理性と神秘』、岩波書店、2017年。

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