『情念論(デカルト)』要旨・要約、感想とレビュー

『情念論(デカルト)』要旨・要約、感想とレビュー

『情念論』の基本情報

書籍名:方法序説・情念論
著者名:ルネ=デカルト
翻訳者名:野田又夫
発行:中央公論新社
発行年:1974年初版

『情念論』のキーワード

カテゴリ:哲学
キーワード:西洋思想、認識論

『情念論』のレビュー

デカルトと言えば、「我思う、故に我あり」の一節があまりにも有名なので、理性を重んじた哲学者であると思う人が多いかもしれない。しかし彼は、決して身体を軽んじていたわけではなかった。むしろ、『情念論』で示されているように、身体と精神の密接な関係に彼は強く関心を寄せていたのである。

『情念論』は、そんなデカルトが人間の感情について論じた小論である。身体と精神の関係から感情(情念)について論じているので、医学書に近い趣を感じる著作になっている。デカルトの理知的な視点から見た感情論は、身体と精神との関係を鮮やかに描き出す。心の闇の問題が広がる現代に生きる人に、ぜひ読んでほしい一冊である。

『情念論』の要旨・要約

人間の精神は、脳内の松果腺という器官を介して身体と繋がっているが、身体とは区別される独立した機能を有している。その機能とは思考であり、思考は能動思考(意志)と受動思考(知覚)に区別できる。意志と知覚は、それぞれ精神的なものと肉体的なものに区別できる。この合計4種類の思考の中で、精神的な知覚が「情念(感情)」と呼ばれる。

情念は、意志が生成する表象が松果腺を通して身体に伝わり、身体運動を司る精気の運動によって引き起こされる(例えば、恐ろしい画像を見たときは、心臓の鼓動が早くなり、驚く)。最も基本的な情念は驚きであり、あらゆる情念は驚き・愛・憎しみ・欲望・喜び・悲しみのいずれか、またはいずれかの複合体である。

いずれの情念も自然的に発生するものであり、それ自体としては善である。それらを適切に制御できるかどうかが、人生の善悪を決定づける。

『情念論』へ感想

デカルト哲学の最大の特徴は心身二元論にあると言っても過言ではない。しかし、心身二元論には致命的な欠陥がある。独立して機能しているはずの精神と身体が協働しなければ感情などは発生しないはずだが、精神と身体はいかにしてリンクしているのか、という問題である。

この問題を歴史上最初に指摘したとされているのがドイツのファルツ地方の王女エリザベトであり、『情念論』を所収した本書『方法序説・情念論』には、その王女とデカルトとの書簡集も収められている。『情念論』は、エリザベトとの書簡を通じたやりとりを経て書かれていることは、内容を読めば明白である。

「松果腺」や「精気」というキーワードを用いて、デカルトはデカルトなりに身体と精神とのつながりを示した。結果としてその説明の全てが正しいわけではないことがわかっているが、二元論を統合する解釈の一つとして『情念論』を読めば、学べる部分は今日においても多々あるように感じられる。

『情念論』と関連の深い書籍

『情念論』と関連の深い「西洋思想」の書籍

  • アリストテレス著・高田三郎訳『ニコマコス倫理学 上・下』、岩波書店、1971年

『ニコマコス倫理学』要旨・要約、感想とレビュー

  • アレント著・志水速雄訳『人間の条件』、筑摩書房、1994年
  • 伊藤泰雄著『神と魂の闇―マルブランシュにおける認識と存在』、高文堂出版社、1997年
  • カント著・篠田英雄訳『道徳形而上学原論』、岩波書店、1976年
  • スピノザ著・畠中尚志訳『エチカ−倫理学 上・下』、岩波書店、1951年

『エチカ 倫理学』要旨・要約、感想とレビュー

  • プラトン著・納富信留訳『パイドン−魂について』、光文社、2019年
  • ラッセル著・安藤貞雄訳『ラッセル 幸福論』、岩波書店、1991年

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『情念論』と関連の深い「認識論」の書籍

  • カント著・波多野精一;宮本和吉;篠田英雄訳『実践理性批判』、岩波書店、1979年
  • パスカル著・前田陽一;由木康訳『パンセ』、中央公論社、1973年

2件のコメント

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