『パイドロス』の基本情報

書籍名:パイドロス
著者名:プラトン
翻訳者名:藤沢令夫
発行:岩波書店
発行年:1967年

『パイドロス』のキーワード

カテゴリ:哲学
キーワード:西洋思想

『パイドロス』のレビュー

最近、「フェイクニュースに騙されない」という印象的なキャッチフレーズを使った広告をよく見るようになった。周知の通り、フェイクニュースとは、根拠のない事柄を真実かのように伝える報道を指す。

フェイクニュースという名前だけ聞けば最近の潮流のようだが、言論の手法としては古代ギリシアのソフィストの弁論術に由来する古典的な手法である。そして、古代ギリシアの哲学者ソクラテスは、真実らしいことを知るためにはまず真実とは何かを知らなければならないとして、ソフィストたちの手法を批判した。

本書の主題は弁論術だが、著者であるプラトンは、同時に恋(エロス)も大きく取り上げている。弁論術と恋は、根源的な真実を追求する哲学という営みのもとに統一される。情報の双交通化が進む現代において、情報の発信者・受信者として知っておきたい言論の本質がここにある。

『パイドロス』の要旨・要約

パイドロスとソクラテスの共通の知人であるリュシアスは、自分に恋している者よりも恋していない者に従うべきであると主張した。恋は狂気だからである。

しかしながら、リュシウスが考える「正気」とは、あくまでも人間的な次元における正義に過ぎない。実際、生命の創造が男女の間の愛によるものである以上、その創造の営みは「狂気」的である。であれば、超人間的な=神的な正義とは何か。

この問題に答えるためには、魂について考えなければならない。魂は不死である。なぜなら魂は自分自身を原因にして動作し(そして身体は魂を原因として動作する)、外界から干渉されないからである。

不死なる魂は、自らの本性に従って完全性=普遍性を追求する。完全性=普遍性は、美によって最もよく体現されるので、魂は美に恋い焦がれる。したがって、恋の狂気は、人間を神的な領域における正義=完全なる正しさ=普遍性へと導くのである。

弁論術は、恋の狂気のような神的な次元につながる狂気に従って、このような完全なる真理を求めるべきなのであるが、そのためには魂の本性・型を理解し、魂に対して適切な働きかけをしなければならない。

『パイドロス』への感想

ソクラテスは(そしてプラトンも)、狂気をある程度肯定的に捉えている。狂気には2種類あり、一つは理性を欠いたもの、もう一つは神懸かり的なものである。神懸かり的な狂気をソクラテスは重要視していたのだった。

ソクラテスのこのような考え方の背後には、知の最高位には神がいるという確信があったはずである。実際、本書においても、魂が目指す完全性の果てにはギリシアの神々がいると記述されている。

だが、近代科学が整備されていくにつれて、知の最高位に位置するのは神ではなく自然科学であるとする価値観が広まっていった。それに伴って、神懸かり的な狂気も、理性を欠いた狂気と同様に「病気」として否定されるようになっていった。

私は、全ての狂気を否定することは人間の進歩を阻害してしまうと考えている。自分たちにとって理解できるものにしか接触しないならば、その理解の範囲内でしか人間は進歩できないからである。

意味の分からないものを、「分からないから捨てる」のではなく、「分からないから向き合う」努力が、今求められている。

『パイドロス』と関連の深い書籍

『パイドロス』と関連の深い「西洋思想」の書籍

  • アリストテレス著・出隆訳『形而上学 上・下』、岩波書店、1959-1961年
  • アリストテレス著・高田三郎訳『ニコマコス倫理学 上・下』、岩波書店、1971-1973年

『ニコマコス倫理学』要旨・要約、感想とレビュー

  • アリストテレス著・三浦洋訳『詩学』、光文社、2019年
  • プラトン著・岩田靖夫訳『ゴルギアス』、岩波書店、1998年
  • プラトン著・久保勉訳『ソクラテスの弁明・クリトン』、岩波書店、1927年

『ソクラテスの弁明・クリトン』要旨・要約、感想とレビュー

  • プラトン著・中澤務訳『饗宴』、光文社、2013年
  • プラトン著・中澤務訳『プロタゴラス−あるソフィストとの対話』、光文社、2010年
  • プラトン著・藤沢令夫訳『国家 上・下』、岩波書店、1979年
  • プラトン著・藤沢令夫訳『メノン』、岩波書店、1994年
  • プラトン著・渡辺邦夫訳『テアイテトス』、光文社、2019年

1件のコメント

  1. ピンバック: 『差異と反復』要旨・要約、感想とレビュー | 【OLUS】オンライン図書館

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