『重力と恩寵(シモーヌ=ヴェイユ)』の要旨・要約、感想とレビュー

『重力と恩寵(シモーヌ=ヴェイユ)』の要旨・要約、感想とレビュー

『重力と恩寵』の基本情報

書籍名:重力と恩寵
原題:La Pesanteur et Grâce
著者名:シモーヌ=ヴェイユ
翻訳者名:冨原眞弓
発行:岩波書店
発行年:2017年

『重力と恩寵』のキーワード

カテゴリ:哲学
キーワード:西洋思想、宗教哲学、形而上学

『重力と恩寵』のレビュー

「自分はいつも流されてばかりだ」、「結局自分は何にもなれていない」。そう感じる人は、いつの時代もたくさんいる。

しかしそれは、本書の著者シモーヌ=ヴェイユに言わせれば「魂の本性」であり、ごく自然なことなのである。存在の本質からして、私は私自身以外にはなれない。一見して当たり前の事実のように見えるが、この事実が自明である限り、「魂の本性」からは抜け出せない。

そこでヴェイユが主張するのが、超自然=神との関係を持つことである。信仰のない人からすればいかがわしい主張のように思えるかもしれないが、私たちが普段求めている「正しいこと」、つまり真理はある意味で超自然的なもの=神的なものである。宗教に馴染みがない人は、本書を読んで自分の生活の背後にある「神的な」要素を探してみるのもいいかもしれない。

『重力と恩寵』の要旨・要約

私の魂―精神的・身体的な行動を駆動させるもの―は、本性的に、物質的な重力に類比される法則に従わされており、そのために堕落し、真・善・美から遠ざかる。この重力によって、私たちは不幸になる。全ての自然はこの重力に従っている以上、私を救済しうるのは超自然的な力=神の恩寵のみである。

神の恩寵を受けるために、私は自我であることをやめなければならない。自我が消滅し、その存在を神へと明け渡して神に隷属することで、神との間に完全なる愛の合一が生まれ、私の魂は神の必然(純粋な真理)と繋がることができる。

『重力と恩寵』への感想

本書の要旨・要約を読んで、ヴェイユが「重力」と呼ぶものは一体何なのか、と疑問に思った方も多いだろう。私なりに一言で言い直せば、世界に働く運動の法則の全てである。因果法則と言ってもいい。

仮に私たちが完全にこの「重力」に縛られているのなら、私たちの自由は一切どこにもないことになる。生まれてから死ぬまで、決定された因果の中をただ動くだけの機械になってしまう。

しかし、この「重力」から逃れる方法がある。恩寵に身を預けることである。それゆえに、私たちはこの世にないはずの−反自然的な−真理・必然・完全性を探求することができる。その探求の中にこそ、本当の自由がある。逆説だが、神に対して従属することによって初めて人は自由を手にすることができるのではなかろうか?

『我と汝』と関連の深い書籍

『重力と恩寵』と関連の深い「西洋思想」の書籍

  • アラン [著] ・宗左近訳『幸福論』、中央公論新社、2016年
  • カント著, 中山元訳『純粋理性批判 1〜7』、光文社、2010-2012年
  • スピノザ [著] ・畠中尚志訳『エチカ:倫理学 上・下』、岩波書店、2011年

『エチカ 倫理学(スピノザ)』要旨・要約、感想とレビュー

  • プラトン著 ; 久保勉訳『ソクラテスの弁明・クリトン』、岩波書店、1964年
  • ヘーゲル著・熊野純彦訳『精神現象学 上・下』、筑摩書房、2018年

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『重力と恩寵』と関連の深い「宗教哲学」の書籍

    • エマニュエル=レヴィナス著・熊野純彦訳『全体性と無限 上・下』、岩波書店、2005-2006年
    • マルティン=ブーバー著・植田重雄訳『我と汝・対話』、岩波書店、1979年

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  • フランツ=ローゼンツヴァイク著・村岡晋一, 細見和之, 小須田健共訳『救済の星』、みすず書房、2009年

『重力と恩寵』と関連の深い「形而上学」の書籍

  • デカルト著・桂寿一訳『哲学原理』、岩波書店、1964年
  • ライプニッツ著・谷川多佳子;岡部英男訳『モナドロジー他二篇』、岩波書店、2019年

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6件のコメント

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