『精神現象学』の基本情報

書籍名:精神現象学 上・下
著者名:ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ=ヘーゲル
翻訳者名:熊野純彦
発行:筑摩書房
発行年:2017年

『精神現象学』のキーワード

カテゴリ:哲学
キーワード:西洋思想、合理論

『精神現象学』のレビュー

私たちが学校で歴史を学ぶとき、当たり前のように古代から現代まで直線的に歴史を教わっている。

しかし歴史を直線と見る見方は決して古くからあるわけではない。「歴史が発展していく」という唯物史観は、ヘーゲルに影響を受けた19世紀の思想家マルクスによって提唱された、極めて近代的な価値観なのである。

したがって、義務教育における歴史の捉え方の源はヘーゲルにあると言っても過言ではない。本書『精神現象学』は、そのヘーゲルの思想のエッセンスをまとめた一冊である。邦訳の文庫版は上・下巻で1000ページ以上に及ぶ長大な作品だが、時間のあるときにぜひ目を通してもらいたい。

『精神現象学』の要旨・要約

本書では、原初の感覚的な経験からスタートして、数多の弁証法的過程を経て最高次の「絶対知」へ至るプロセスが壮大なスケールで描かれている。

最も直接的な感覚的確信とは、対象から何者をも取り去っておらず、その全体を目の前においていることに起因している。しかし一方で、この確信が告げる真理は、「その事柄がただ存在している」というだけの貧しい真理である。

あるものに対する否定と、当のあるものとを調停する形で統合が果たされることを「弁証法的統合」と呼ぶが、ヘーゲルは感覚的確信に端を発して、自己意識→理性→精神→啓示宗教→絶対知と弁証法的プロセスを進めていく。絶対知に至る直前のステップである啓示宗教で、精神は完全で真なる内容を啓示される。

絶対知においては、己の精神はその啓示された内容を概念として知的に理解する。ここで精神は、完全で真なる内容を内側に収めた絶対精神となるのである。

『精神現象学』への感想

この記事の要旨・要約だけを読んでも、弁証法的プロセスのイメージが湧きづらいと思うので、最初の弁証法を例に、そのプロセスのあり方を示しておく。

直接的な感覚的確信において、対象は純粋に「それ自体」としてのみ現れていた。ところが、その対象が私たちの知覚対象になると、それは多くの性質を備えた事物として私たちに現前する。例えば、最初単なるリンゴそれ自体として認知されていたリンゴは、それが知覚対象になると赤さや丸みを帯びたものとして認知されるようになる。

それらの性質は互いに自存しているが、それらは互いに互いを否定し合うことによって己を規定している(例えば「丸み」は「角ばっている」の否定として規定される)。知覚の対象としての事物は、これらの相互否定が統合された体系として現れることになる。リンゴの赤さも丸みも、「リンゴ」という表象のもとに統合されているのである。

従来哲学の体系は頂点から下部へと構築される傾向があったのに対して、ヘーゲルの弁証法は下部から上部を作り上げる。この方向性は、後のマルクスによる労働者の革命の思想にも通じるところがある。近現代の革命史を振り返る際には、まずその弁証法的なプロセスのあり方を押さえておくといいだろう。

『精神現象学』と関連の深い書籍

『精神現象学』と関連の深い「西洋思想」の書籍

  • ヘーゲル著・木場深定訳『ヘーゲル全集15〜17 宗教哲学 上・中・下』、岩波書店、1982-1995年
  • ヘーゲル著・長谷川宏訳『哲学史講義Ⅰ〜Ⅳ』、河出書房新社、2016年
  • ヘーゲル著・長谷川宏訳『美学講義 上・下』、作品社、1995年
  • ヘーゲル著・藤野渉;赤沢正敏訳『法の哲学 1・2』、中央公論新社、2001年
  • マルクス著・長谷川宏訳『経済学・哲学草稿』、光文社、2010年

『経済学・哲学草稿』要旨・要約、感想とレビュー

『精神現象学』と関連の深い「合理論」の書籍

  • カント著, 中山元訳『純粋理性批判 1〜7』、光文社、2010-2012年
  • カント著・篠田英雄訳『判断力批判 上・下』、岩波書店、1964年

『判断力批判(カント)』要旨・要約、感想とレビュー

  • シェリング著・西谷啓治訳『人間的自由の本質』、岩波書店、1951年
  • フィヒテ著・木村素衛訳『全知識学の基礎』、岩波書店、1949年

7件のコメント

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