目次
『非唯物論』の基本情報
書籍名:非唯物論:オブジェクトと社会理論
著者名:グレアム=ハーマン
翻訳者名:上野俊哉
発行社:河出書房新社
発行年:2019年
『非唯物論』のキーワード
カテゴリ:哲学、西洋思想、形而上学、存在論
キーワード:オブジェクト指向存在論、物自体
『非唯物論』のレビュー
みなさんは、小さい頃に
「死んだらどうなるんだろう?」
と不安で眠れなくなった経験はないだろうか。今「いる」私が「いなくなる」。考えただけで背筋が凍る話である。
この恐怖を感じるとき、私たちは「いる(存在する)とは何か?」という哲学的な問題に直面する。私はどのように存在しているのか、そもそも私は本当に存在しているのか、と。
古代ギリシアの時代から哲学者たちを悩ませてきたこの存在論についての問題に、近年新たな光が差し込んでいる。「オブジェクト指向存在論」という、あらゆる存在を「対象(オブジェクト)」として、存在の実在を正当化する主張である。
本書の著者ハーマンは、この「オブジェクト指向存在論」の第一人者である。死に対して漠然とした恐怖を感じている人は、本書を読めば少しは救われるかもしれない。
『非唯物論』の要旨・要約
問い:
対象は、私たちの社会的生活の中でいかにして存在し、私たちはいかにしてその対象を認識しているのか。
答え:
- 対象は「物自体」として存在している。
- 「物自体」とは、対象の構成要素にも対象の働きにも還元できない、対象それ自体の真実在である。それは他の対象から自律して存在している。
- 「物自体」は直観されるものではなく、隠喩を介して間接的に知られる。
答えの補足:
- ここで言う「物自体」は、カントの「物自体」とは違って、私たちが生きているこの世界内に存在する。私たちひとりひとりも「物自体」である。
- 私たちの存在は、私たちの構成要素と等しくない。また、私たちの存在は、私たちの働きとも等しくない。
- 実在とは、「ある」か「ない」かの二択ではなく、その間において「探求される」ものである。
『非唯物論』への感想
グレアム=ハーマンが提唱する「オブジェクト指向存在論」を含めた新しい実在論の目的は、
「モノの実在性を人間との関係から解放する」
ということにある。
デカルトが「我思う、ゆえに我あり」を宣言して以来、事物の実在は常に人間の認識との関係の中で論じられてきた。(デカルトについては以下の記事を参照してほしい)
20世紀に入って現象学が登場し、旧来の<主観ー客観>図式を改め、存在を現象として捉えるようになっても、事物は人間との関係性に捕われ続けていた。「事物はあくまで私たちに対して存在するのだ」と考えられていたのである。
だが、本当にそうか。事物は本来、人間との関係などなくても存在しているのではないか。哲学は、いいかげん人間と切り離された事物の実在について語らなくてはならないのではないか。
このような問題意識を持って存在論へ挑むことは、おそらく今後の環境問題の進展にもつながっている。人間から自律した事物それ自体への思索を始めることで、私たちはようやく人間中心主義的思考の外側に立てるようになるからである。
ここ数年は思弁的実在論のブームが下火になりつつあるようであるが、彼らの問題意識は今後も継承されなければならない。哲学の進展のため、そして私たちが住む世界のために。
『非唯物論』と関連の深い書籍
『非唯物論』と関連の深い「西洋思想」の書籍
- ラトゥール著:伊藤嘉高訳『社会的なものを組み直す:アクターネットワーク理論入門』、法政大学出版局、2019年
- ラトゥール著:川村久美子訳『虚構の「近代」ー科学人類学は警告する』、新評論、2008年
『非唯物論』と関連の深い「存在論」の書籍
- ガブリエル著:清水一浩訳『なぜ世界は存在しないのか』、講談社、2018年
- ガブリエル著:廣瀬覚訳『新実存主義』、岩波書店、2020年
- ハーマン著:岡嶋隆佑他3人訳『四方対象:オブジェクト指向存在論入門』、人文書院、2017年
- メイヤスー著:岡嶋隆佑他4人訳『亡霊のジレンマー思弁的実在論の展開』、青土社、2018年
- メイヤスー著:千葉雅也訳『有限性の後で:偶然性の必然性についての試論』、人文書院、2016年
『非唯物論』と関連の深い「形而上学」の書籍
- ライプニッツ著:谷川多佳子;岡部英男訳『モナドロジー 他二篇』、岩波書店、2019年
- デカルト著:谷川多佳子訳『方法序説』、岩波書店、1997年