“From the enemy’s point of view(カストロ)”要旨・要約、感想とレビュー

“From the enemy’s point of view(カストロ)”要旨・要約、感想とレビュー

“From the enemy’s point of view”の基本情報

書籍名:From the enemy’s point of view
著者名:Eduardo Vivieiros de Castro
翻訳者名:Catherine V. Howard
発行:The University of Chicago Press
発行年:2012年

“From the enemy’s point of view”のキーワード

カテゴリ:哲学
キーワード:西洋思想、存在論

“From the enemy’s point of view”のレビュー

文化人類学と聞いて、読者の皆さんは何をイメージするだろうか。「未開」と呼ばれる社会で現地人たちと交流したり、未開の言語・文化を調べたりする民族誌的な学問だと思う人が多いかもしれないが、現代の人類学はかなり哲学に親和的である。現代の哲学と人類学は、互いに影響を受けあいながら発展してきている。

その現代の人類学の最前線で活躍しているのが本書 “From the enemy’s point of view”を著したブラジルの学者エドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロである。彼は、「自然が単一でその上に複数の文化が成り立つのではなく、文化の方が単一で、その文化によって測られる自然の方が複数なのである」とする「存在論的転回」を提唱し、一躍注目を浴びた。

本書は、そのカストロが1980年代にブラジルの北西・アマゾニア地方に住む少数民族アラウィテに行ったフィールドワークに基づいて編纂された著作である。カストロが描くアラウィテの存在論は、近代の終焉後の世界を予言する。肥大化し暴走する近代社会に住む全ての人が注目すべき100年後の世界観がここにある。

“From the enemy’s point of view”の要旨・要約

アラウィテの人々は、死者の魂は天国にたどり着いたあと、神によって呑み込まれ、神として不死になると考えている。すべての人は「移り行き」のプロセスの中にあり、やがて他者(神など)となることを宿命としている。

通常、原始的な社会は「外部」を持たないとされてきた。そのような社会では外部との交流が極端に少なく、その世界観は社会の内部だけで完結するのだ、と。しかしアラウィテの社会の実情は真逆である。アラウィテの社会は「内部」を持たない。自我(内部)はやがて他者(外部)となるものであり、両者に区別はないからである。

一般に自我と言われるもの、他者と言われるもの、生や死、人と神。アラウィテの社会において、それらはすべて一つの生成(becoming)の過程の中にある。ここでは、生成(becoming)が存在(being)に先行するのである。このような世界観のもとで、食人やシャーマニズムなどに象徴されるアラウィテの文化が育まれている。

“From the enemy’s point of view”への感想

本書で描かれているアラウィテの人々の思想は、哲学的にはドゥルーズの思想に近い。要旨・要約の項で、アラウィテの社会について「生成が存在に先行する」と述べたが、これに似た表現としてドゥルーズは「差異が同一性に先行する」という表現を使っている。では、アラウィテやドゥルーズのこのような表現は一体何を意味しているのか。

「私は私である」という命題は自明であるが、これは「私は私自身と同一である」と言い換えられる。ところで、私は初めから私自身に対して同一であるわけではなく、名前を獲得したり固有の自我を生成させたりすることで「同一に『なる』」。

存在の同一性の背後にはこのような生成のプロセスがあり、言い換えれば同一化される前の差異があることになる。アラウィテの人々やドゥルーズは、こうした差異・生成に注目した思想を展開しているのである。

この思想は、資本主義を超越している点で非常に重要である。資本主義の原理は基本的に自己同一性を資本によって絶えず再構成する原理である。資本主義は自己を無限に肥大させることはできても、自己の有限性を超越することはできない。

これに対して、アラウィテの人々の世界観は、自己を超越する手立てを私たちに与えてくれる。「自己はやがて他者になる。すべては生成の過程の中にある」。資本主義が終わりを告げるとき、近代に生きていた人々はこの命題の真価を理解するようになると私は予感している。

“From the enemy’s point of view”と関連の深い書籍

“From the enemy’s point of view”と関連の深い「西洋思想」の書籍

  • 浅田彰著『構造と力』、勁草書房、1983年

『構造と力』要旨・要約、感想とレビュー

  • カストロ著・檜垣立哉;山崎吾郎訳『食人の形而上学:ポスト構造主義的人類学への道』、洛北出版、2015年
  • コーン著・奥野克己他3人訳『森は考える−人間的なるものを超えた人類学』、亜紀書房、2016年
  • ストロース著・渡辺公三;泉克典訳『われらみな食人種(カニバル):レヴィ=ストロース随想集』、創元社、2019年
  • デリダ著・藤本一勇他2人訳『散種』、法政大学出版局、2013年
  • ドゥルーズ;ガタリ著・宇野邦一訳『アンチ・オイディプス上・下 資本主義と分裂症』、河出書房新社、2006年
  • レリス著・岡谷公二他2人訳『幻のアフリカ』、平凡社、2010年
  • Castro: Intensive Filiation and Demonic Alliance, “Deleuzian Intersections Science, Technology, Anthropology”, Berghabn Books, 2010, pp.219-254

“From the enemy’s point of view”と関連の深い「存在論」の書籍

  • ドゥルーズ著・財津理訳『差異と反復』、河出書房新社、1992年
  • レヴィナス著・熊野純彦訳『全体性と無限 上・下』、岩波書店、2005-2006年

『全体性と無限』要旨・要約、感想とレビュー

  • Heaclitus: The Cosmic Fragments, Cambridge University Press, 2010

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