『哲学原理(デカルト)』要旨・要約、感想とレビュー

『哲学原理(デカルト)』要旨・要約、感想とレビュー

『我と汝』の基本情報

書籍名:哲学原理
原題:Principia Philosophiae
著者名:デカルト
翻訳者名:山田弘明・吉田健太郎・久保田進一・岩佐宣明
発行:筑摩書房
発行年:2009年

『哲学原理』のキーワード

カテゴリ:哲学、形而上学
キーワード:、実体、区別

『哲学原理』のレビュー

デカルトの主要な著作を挙げろと言われれば、私は迷いなく『方法序説』・『情念論』・『省察』・『哲学原理』の4冊を挙げる。詳しくは以下の記事を読んでほしいが、この4つの著作が後世の哲学・自然学に与えた影響は計り知れない。

『哲学原理』は、この4冊の中では最後に書かれた作品で、文字通り「哲学」の「原理」を示した作品である。

当時のアカデミズムにおいて、「哲学」は「自然学」(この世界全てを対象とした超越的な学問)だったことを踏まえると、「哲学原理」とは「この世界を動かす根本原理」ということになる。

デカルトが考える「この世の原理」とは何か—その意味を掌握するとき、世界は<私>の掌にある。

デカルト思想の集大成を、刮目して見届けよ。

『哲学原理』の要旨・要約

『哲学原理』の要旨・要約①:確実な認識と神の完全性

確実な認識を得るためには、疑わしいものを全て排除する必要がある。あらゆる感覚も、数学的論証も、そこには一定の疑わしさが残る。しかし、「疑わしい」と考えている<私>の存在だけは疑いえない(仮に疑いえるとすれば、矛盾が生じる)。

したがって、「我思う、ゆえに我あり」は最も確実な認識である。

精神の本性は思惟であり、延長を本質とする物体から区別される。思惟実体と延長実体によって、この世界が構成されている。

精神は最高に完全な存在者=の観念を持っている。その観念には必然的な存在が含まれている。神の観念を持っている原因は、観念の原型としての神にある。

神は誤らない。神は完全性そのものだからである。過つことがあるとすれば、それは被造物であり有限な存在者である私たちに原因がある。

明晰判明に認識するものだけに同意するならば、人は誤らない。明晰とは、注意する精神に対して明らかな事柄であり、判明とは明晰でありかつ他の事柄から区別される事柄を指す。

『哲学原理』の要旨・要約②:実体について

実体とは、他のものに依存せず成立する存在のことである

「実際には」神だけが実体だが、精神と物体も「ある意味で」実体である。

神、精神、物体などの実体にはそれぞれの主要属性があり、属性によって互いを区別することによって初めて、実体についての明晰にして判明な観念を持つことができる。

『哲学原理』の要旨・要約③:いかにして事物は区別されるか?

区別には実在的・様態的・観念的という3つのパターンがある。

  • 実在的区別複数の実体の間の区別
  • 様態的区別:文字通り、様態間の区別、あるいは実体と様態との区別。思惟と延長はそれぞれ実体の様態である。
  • 観念的区別事物の属性間の区別、あるいは実体と属性との間の区別。思惟と延長の概念と、それらの実体とは、観念としては区別される。

『哲学原理』の要旨・要約④:判断を誤る原因

私たちは、明晰にして判明な認識が可能であるにもかかわらず判断を誤ることがある。

その原因は、

  1. 幼少期の先入観
  2. 幼少期の先入観を容易に除去できない
  3. 感覚や想像によってしか事物を認識できないという先入観がある
  4. 事物と対応していない言葉に同意して、誤った概念を形成してしまう

世の中を正しく認識するためには、明晰判明に知られることだけを真とすべきであり、誤謬は退けられなければならない。

『哲学原理』への感想

誰の言葉か忘れたが、「哲学の目標は世界征服である」という言葉を聞いたことがある。

哲学者は、世界を見るときに世界の骨格だけを見ている。哲学者にとって世界の本質は、その骨格にある。

世界の骨格は、最終的には哲学的思考によって解析可能である(と考えて哲学者は研究している)。

さて、哲学の発展によって、世界の骨格が全て解析されたとしよう。そのとき、私たちの意識に世界の骨格の全てが現象することになる。

意識の上の世界の骨格の全てが現象するとき、私たちの目にはこの世界の端から端までが隈なく見えるようになっている—したがって、このとき私たちは神の認識を獲得できるのである。

ちっぽけな一人の人間が、限りのないこの世界の全てを俯瞰する力を持つ。ここに、哲学の「世界征服」の壮大なるヴィジョンがある。

おそらくデカルトは、この「世界征服」という目標に限りなく近づいた哲学者の一人なのだろう。その思想は天高く聳え、私たちはその頂点を見ることができない。だからこそ、デカルトの思想という山脈には、一歩ずつ登っていく価値があるのだと私は信じている。

『哲学原理』と関連の深い書籍

『哲学原理』に直接関連する書籍

  • デカルト著:桂寿一訳『哲学原理』、岩波書店、1964年。
  • デカルト著:山田弘明ほか3人訳『哲学原理』、筑摩書房、2009年。
  • スピノザ著:畠中尚志訳『デカルトの哲学原理—附 形而上学的思想』、岩波書店、1995年。

デカルトについて知りたい人向けの書籍

  • 上野修著『デカルト、ホッブズ、スピノザ—哲学する17世紀』、講談社、2011年。
  • 小林道夫著『デカルト入門』、筑摩書房、2006年。
  • デカルト著:谷川多佳子訳『情念論』、岩波書店、2008年。
  • デカルト著:谷川多佳子訳『方法序説』、岩波書店、1997年。
  • デカルト著:山田弘明訳『省察』、筑摩書房、2006年。
  • デカルト著:山田弘明訳『デカルト=エリザベト往復書簡』、講談社、2001年。
  • 山田弘明著『「方法序説」を読む—若きデカルトの生と思想』、世界思想社、1995年。

 

1件のコメント

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