『経済学・哲学草稿(マルクス)』要旨・要約、感想とレビュー

『経済学・哲学草稿(マルクス)』要旨・要約、感想とレビュー

『経済学・哲学草稿』の基本情報

書籍名:経済学・哲学草稿
原題:Ökonomisch-philosophische Manuskripte
著者名:カール=マルクス
翻訳者名:長谷川宏
発行:光文社
発行年:2010年初刊発行

『経済学・哲学草稿』のキーワード

カテゴリ:哲学
キーワード:西洋思想、政治哲学

『経済学・哲学草稿』のレビュー

マルクスという名を聞いて、まず思い浮かべるのは『資本論』であろう。思想に関心がない人でも、どこかでその本の存在を聞いたことはあるかもしれない。

本書は、マルクスが26歳のときの草稿を基に、彼の死後49年を経て編集されたものである。ここには、『共産党宣言』や『資本論』の発表に至る前段階の彼の思想の萌芽が見られる。経済学と哲学が交わる地点で資本主義を批判的に見つめた青年マルクスの言葉は、資本主義が極限まで肥大した現代にとっては痛烈なカウンターとなるであろう。

これから社会に出る人、今の社会に閉塞を感じる人にぜひ読んでほしい一冊である。

『経済学・哲学草稿』の要旨・要約

人間は、自然を意識的に(本能的でない形で)捉えられるので、自然と多様な交流を図れる。また、人間は人間同士の間でも社会の上に多様な交流を行える。このような人間・自然・社会の三項間の多様な交流に労働の本質がある。

ところが、資本主義においてはこのような労働の可能性が否定(疎外)されている。資本主義では、労働の生産物はその労働者の手から離れるし、そもそも労働の過程自体が他人から与えられるものになっている。資本主義は、働く人とその働くかけの対象との自由な交流を疎外するのである。

『経済学・哲学草稿』への感想

ヘーゲルとマルクスとの関係は古くから論じられていることなので、門外漢である私が口を挟むことではないのかもしれない。それでも一言申し添えておくと、両者は人間の本質に対する考え方について決定的に対立している。

ヘーゲルは、人間の本質をその自己意識=理性という抽象的なレベルにあると捉え、理性が世界を包括する「絶対知」の次元に至るまでの壮大なプロセスを『精神現象学』で示した。

これに対してマルクスは、人間の本質を自然・社会との多様な交流可能性という具体的なレベルに据えている。確かに抽象的な自己意識=理性も人間の根本的な可能性の一つかもしれないが、それを人間の本質とみなすことは、身体的=具体的存在としての人間を疎外することになる。本書の根底には、マルクスのこのような人間観が横たわっている。

この二項対立自体は極めて古典的な図式だが、このことを意識して両者の思想を読むと、ヘーゲルとマルクスの間の連続性と断続性がより明確に感じられるのではないだろうか。

『経済学・哲学草稿』と関連の深い書籍

『経済学・哲学草稿』と関連の深い「西洋思想」の書籍

  • スミス著・水田洋;杉山忠平訳『国富論 1〜3』、岩波書店、2000-2001年
  • 廣松渉;良知力著『ヘーゲル左派論叢 第1巻(ドイツ・イデオロギー内部論争)』、御茶の水書房、1986年
  • フォイエルバッハ著・松村一人;和田楽訳『将来の哲学の根本命題―他二篇』、岩波書店、1967年
  • ヘーゲル著・熊野純彦訳『精神現象学 上・下』、筑摩書房、2017年

『精神現象学(ヘーゲル)』要旨・要約、感想とレビュー

  • ボナア著・中野正訳『リカアドオのマルサスへの手紙 上・下』、岩波書店、1942年
  • ミル著・斎藤悦則訳『自由論』、光文社、2012年

『我と汝』と関連の深い「政治哲学」の書籍

  • シュトラウス著・塚崎智;石崎嘉彦訳『自由権と歴史』、筑摩書房、2013年
  • ロック著・角田安正訳『市民政府論』、光文社、2011年
  • レーニン著・角田安正訳『帝国主義論』、光文社、2006年

4件のコメント

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