フランス現代思想・入門におすすめの5冊の哲学書をわかりやすく解説!

フランス現代思想・入門におすすめの5冊の哲学書をわかりやすく解説!

はじめに:フランス現代思想の哲学書、何から読めばいいの?

フランス現代思想とは、19世紀末・ベルクソンたちの思想から戦後のポスト構造主義に至るまでの、フランスにおける思想潮流のことです。

口で言うのは簡単ですが、具体的な内容を体系的にまとめるのは容易ではありません。例えば、同じ「構造主義」の思想の中でも、レヴィ=ストロースの思想とフーコーの思想はかなり異なっています。

あまりにも内容が複雑なので、フランス現代思想に慣れていない人は「一体どれから読んだらいいのか……」と悩んでしまいますよね。

そこでこの記事では、フランス現代思想を彩る数々の名著の中から5冊を選んで、内容を簡単に・わかりやすく紹介します。

今からフランス現代思想を学びたい人も、一度挑戦して挫折した方も、まずはこの5冊の内容に触れてみて、興味が湧いたらぜひ実際に読んでみてくださいね。

(この記事ではフランス現代思想の哲学書を紹介します。現代思想全般に関する知識を深めたい人は、以下の記事も併せてご覧ください)

フランス現代思想・入門におすすめの哲学書5選!

フランス現代思想の哲学書①:『神話と意味』(レヴィ=ストロース)

この哲学書の作者と概要

最初に紹介するのは、現代の文化人類学のパイオニアにして、構造主義思想の代表格の一人であるレヴィ=ストロースの『神話と意味』です。

本書では、数々の現地調査を通してレヴィ=ストロースがまとめた「未開」民族の神話とその内容が、ラジオ放送に寄せられた視聴者からの質問に答える形で紹介されています。

レヴィ=ストロースはフランス人なので、母国語は当然フランス語なのですが、このラジオ放送では英語で質問に回答しているので、非常にわかりやすい口調になっています。

ですから、レヴィ=ストロースの思想を全く知らない人でも、比較的に容易に理解できる内容になっているはずです。肩の力を抜いて挑戦してみてくださいね。

この本についての詳しい解説はこちら↓

この哲学書の内容

レヴィ=ストロースは、若い時から物事を秩序立てて考えることに関心を寄せていました。そのため、非文字文化における神話構造の分析は彼を大いに魅了しました。

数々の非文字文化の神話を分析した結果レヴィ=ストロースは、神話と近代科学との間に明確な分裂などないことを発見しました。

科学の発達によって神話的思考は排斥されると一般的には考えられていますが、実際には、その発達した科学によって神話的な思考の潜在的な意味=構造が明らかになる。ゆえに、科学と神話は相互的な関係にある、とレヴィ=ストロースは結論づけました。

また、神話は近代科学だけでなく、西洋音楽とも類似の構造を持っているとレヴィ=ストロースは指摘しています。

神話を個々の構成要素を分解していくだけでは神話の本質的構造に辿り着けず、本質を把握するには全体を一挙に掌握する必要がある——部分よりも全体の姿の方が重要になるという点において、神話と音楽は共通点を持っているというわけですね。

この哲学書をおすすめしたい人

レヴィ=ストロースは、文化人類学・哲学だけでなく人文科学全般において非常に重要な思想家なので、文学・思想・歴史などの諸学に携わる人はぜひ押さえておきたいものです。

いきなり彼のフィールドワークの記録(『野生の思考』や『悲しき熱帯』など)を読むのはハードルが高いと思うので、まずはこの『神話と思考』を読んで、彼の思想の根幹部分を理解しましょう!

フランス現代思想の哲学書②:『嘔吐』(サルトル)

この哲学書の作者と概要

2冊目に紹介するのは、フランスにおける実存主義の大家であるサルトルの傑作小説・『嘔吐』です。

「哲学的エッセイ」と称される(鈴木道彦による邦訳、p.324参照、人文書院)本書では、主人公である歴史家・ロカンタンが自身の日記に実存主義的な思想の発見をひたすらに書き綴っていきます。

ロカンタンの胸に去来する「嘔吐」の正体とは何か。その答えに向かってひた走る日記を追っていく中で、「実存主義」と呼ばれる思想の本質が少しずつ見えてきます。本書は小説であると同時に、一冊の哲学書でもあるのです。

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この哲学書の内容

30歳の孤独な歴史家・ロカンタンは、友人こそ少ないがモノには恵まれた生活の中で、高等遊民のように暮らしていました。

しかしある日突如として、モノに囲まれた生活に吐き気を催すようになります。

断続的に襲ってくる吐き気の正体に迫るべく、彼はガールフレンドや他の研究者と対話しながら、自分が考えたこと・感じたことを詳細に日記に書き留めるようになりました。

その結果、彼は私たち人間も、周りにあるモノと同じように一つの「存在」に過ぎないことを発見します。

私たちが今ここに存在することに必然性はなく、個々の存在はいかなる歴史=物語からも疎外されている。ゆえに、私たちの存在は無意味である

この事実が吐き気の正体であることに気づいたロカンタンは、未来の物語にこの吐き気が救済されることを願って日々を過ごすようになるのでした……。

この哲学書をおすすめしたい人

正直、一読しただけでは「何を言うとるねんコイツw」ってなると思います。しかし、何度も繰り返し読んでいく中で、ロカンタンが気づいた「存在の無意味さ」が徐々に感じ取られるようになるはずです。

実存主義における「存在」の切迫感を体感したい人は、ぜひ一度本書を読んでみてくださいね。

フランス現代思想の哲学書③:『実存から実存者へ』(レヴィナス)

この哲学書の作者と概要

3冊目は、ユダヤ人思想家として戦後フランスの思想界の第一線を駆け抜けたレヴィナスの『実存から実存者へ』です。

このサイトで紹介するのはこれで3回目になるのですが、あらゆる意味で重要な著作なので、改めて紹介させてもらいますね。

リトアニアに生まれフランスに帰化したレヴィナスは、第二次世界大戦の間ユダヤ人としてナチスに拘束され、自分自身は生き延びたものの、妻と子を除く親族のほとんど全員を虐殺されてしまいました

この凄惨な経験から、レヴィナスは「存在」について問い直すことになります。何かが「ある」と言うとき、一体何が「ある」のか——20世紀の存在論に深刻な影響を与えた本書の内容を、ちょっと覗いてみましょう!

この本についての詳しい解説はこちら↓

この哲学書の内容

「私が存在する」この事実は、「私が、自分自身の存在を引き受ける」という出来事を指し示している、とレヴィナスは指摘しています。

私が私である限り、私は自らの存在を引き受けなくてはならず、その重みを持つことで、存在は存在となる、というわけです。

ところで、この存在は何もないところから急に出現するわけではありません。私たち一人一人が胎内から生まれるように、あらゆる存在には何らかの「母胎」から生じてきます。では、存在を育む「母胎」とは何でしょうか。

レヴィナスは、その「母胎」が「ある」という事実であると指摘しています。ここでいう「ある」とは、「何かの事物がある」という事実ではなく、「全ての事物の存在を否定した後には、『ない』という事実だけが『ある』ようになる」という事実のことです。

全ての存在の「母」は、あらゆる存在に先立って「ある」必要があります。あらゆる存在に先立つということは、全ての存在が「ない」ということなのですから、存在の「母胎」は「『ない』という事実が『ある』ということ」になりますよね。

この「ある」から全ての存在が生まれてきて、私は私の存在を引き受けて存在するようになる、とレヴィナスは考えているというわけです。

この哲学書をおすすめしたい人

解説してみて思ったのですが、やはりレヴィナスの思想は難しいですね。特に「ある」の思想はなかなか言葉で説明しにくいものがあります。

しかしその分、何度も何度も解釈し直していく中で、毎回違った発見が得られます。「ある」とは何か。このシンプルで深遠な問いに自分なりの答えを見つけたい方は、ぜひレヴィナスの思想にチャレンジしてみてくださいね。

フランス現代思想の哲学書④:『声と現象』(デリダ)

この哲学書の作者と概要

4冊目は、「脱構築」や「差延」などで知られる思想家・デリダの『声と現象』です。

本書は、デリダ独自の思想が花開いた記念碑的作品であると同時に、フッサールの『論理学研究』という著作に対する解釈を提示した二次資料的作品でもあります。

したがって本書を読めば、フッサールの現象学からデリダの脱構築的思想がどのように生まれたのかという思想史的問題を理解することができます。

というわけで、かなり骨のある内容になりますが、頑張ってついてきてくださいね。

この本についての詳しい解説はこちら↓

この哲学書の内容

本書の目的(そして、フッサールの『論理学研究』の目的)は、言語という記号の本質的な意味を探ることにあります。

そのために、デリダはフッサール解釈を通して、記号の純粋な意味を汚染する要素を一つずつ削っていきます。

まず最初に削られるのが、「指標作用」という記号間の必然性のない言い換え関係で、次に削られるのが明確な意味を持たない「態度」という要素。そして最後に削られるのが、「伝達作用」と「表明=告知作用」になります。

フッサールは、これらの要素を削った後に残る記号こそ純粋な意味を持つ記号であると考えていましたが、デリダはここから一歩進んで、「本当にその記号が純粋なのか?」という問題を考察しました。

記号が普遍的であるためには、永続的に言い換え可能=置き換え可能でなければなりません。

ということは、記号が何かを意味するとき、その記号は別の記号の代替品になっているので、記号自身の起源=本質に至ろうとするのは不可能になってしまいます(記号AはBの代替品、BはCの代替品…という形で、無限に遡ることができてしまう)。

したがって、フッサールにとっての「純粋な記号」は決して純粋ではなく、その背後には無限の置き換え関係があるとデリダは指摘しました。

この哲学書をおすすめしたい人

レヴィ=ストロースが「構造主義」の思想家と言われているのに対して、デリダは「ポスト構造主義」の思想家と言われています。レヴィ=ストロースが静的・固定的な構造から対象を分析していたのに対して、デリダは動的・流動的な構造をもって対象を捉えていると言えるでしょう。

どちらも重要な考え方なので、レヴィ=ストロースの思想が大体わかったという人は、デリダの思想にもチャレンジしてみてくださいね。

フランス現代思想の哲学書⑤:『差異と反復』(ドゥルーズ)

この哲学書の作者と概要

最後に紹介するのは、戦後のフランス思想界を代表する知識人・ドゥルーズの『差異と反復』です。

ドゥルーズの哲学的著作は(ガタリとの共著を含めると)、『差異と反復』・『千のプラトー』・『アンチ・オイディプス』が有名ですが、本書『差異と反復』はこの中で最も古い時代に書かれたものです(1968年に初版発行)。

本書が書かれた1968年という年は、フランスで五月革命が勃発した年でもあり、政治的にも思想的にも重要な節目に位置付けられています。

その混乱の中で、若き日のドゥルーズが考えていたのは、「同一性と差異」という、古代ギリシア以来の哲学の課題でした。そして彼は、この課題について、旧来の哲学とは一線を画す解釈を導きます__!

この本についての詳しい解説はこちら↓

この哲学書の内容

プラトン以来の伝統的な哲学において、イデア=普遍性は、「差異なく反復されるもの」でした。これは定義上の問題で、普遍性を持つイデアが反復して現れる度に差異が生じているならば、そのイデアは普遍性を持つとは言えないからです。

しかしこのような思想においては、イデア的な概念がいかにして生じているのかという問題に答えることができません。イデアは普遍であり、永遠であるがゆえに、誕生も死も持たないのです。

したがって、概念の創造について語るためには、イデアの思想から離れて「差異のある反復」を分析する必要があります。

ドゥルーズによれば、差異のある反復は行為における反復として考えられます。「同じ」行為が反復されるとき、その行為が生じる場の変化によって、「同じ」行為に内的な「差異」が生じるのです。

この差異は行為の反復の度に生成され、あらゆる「普遍性」はこの反復から生まれている、とドゥルーズは指摘しています。

この哲学書をおすすめしたい人

この記事で紹介した中で、『差異と反復』は一番長大で一番難解な著作だと私は考えています。

ですから、まずは他の4冊を手に取ってみて、「いけそうだな」と思ったら本書にチャレンジしてみてください。私も最初は挫折しましたし、生半可な覚悟で読める本ではありませんから……(汗)。

おわりに:まず数冊読んで、フランス現代思想の大枠を掴もう!

いかがでしたか?

この記事では、フランス現代思想の中の名著として、以下の5冊を紹介しました。

  • 『神話と意味』(レヴィ=ストロース)
  • 『嘔吐』(サルトル)
  • 『実存から実存者へ』(レヴィナス)
  • 『声と現象』(デリダ)
  • 『差異と反復』(ドゥルーズ)

概要だけではよくわからない部分もあると思うので、適宜それぞれの哲学書の紹介記事もみながら読んでみてくださいね。

それでは!

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