『クローム襲撃(ウィリアム=ギブスン)』あらすじ、感想とレビュー

『クローム襲撃(ウィリアム=ギブスン)』あらすじ、感想とレビュー

『クローム襲撃』の基本情報

書籍名:楽園追放 rewired
著者名:ウィリアム・ギブスン
翻訳者名:浅倉久志
発行:早川書房
発行年:2014年

『クローム襲撃』のキーワード

カテゴリ:文学
キーワード:近代以後の西洋文学、小説

『クローム襲撃』のレビュー

こちらの記事で、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を「サイバーパンク」として紹介したが、サイバーパンクという表現が使われ始めたのは、アメリカのSF作家ウィリアム・ギブスンが『ニューロマンサー』を発表した後だと言われている。

この『ニューロマンサー』によって、「電脳=サイバースペース」というサイバーパンクの基本概念が生まれ、サイバーパンクはSFの一ジャンルとして市民権を得ることになった。

『クローム襲撃』は、ギブスンが『ニューロマンサー』執筆以前に描いたサイバーパンク的短編である。ニューロサイエンスとテクノロジーを使って電脳空間にダイブし、現実さながらの緊迫感の中でマフィアの巣窟をぶちのめす。ギブスンのリズム感のある文体が癖になる、これからSFを読み始める人にオススメしたい短編である。

なお、本編収録のアンソロジー『楽園追放 rewired』には、サイバーパンク30年の歴史を総括する8篇の短編が掲載されている。サイバーパンクへの理解をさらに深めたい人は、ぜひ書籍を購入してほしい。

『クローム襲撃』のあらすじ

「俺」ことオートマチック・ジャックは、片腕につけた筋電義手でどんな部品・パーツも修理してしまうハードウェアのスペシャリスト。相棒のボビイ・クラインはマトリックス(仮想現実)の中から企業のデータ・預金をかすめとるコンソール・カウボーイ。二人は電脳空間の中で、裏社会に潜む悪党と日々激戦を繰り広げていた。

金のため、そしてリッキーという女性のために今回二人が挑むのはクロームという大規模マフィアの巣窟である。周到に用意を重ね、決して見つからないようにクロームへ命がけの襲撃を企てるのだが……?

『クローム襲撃』への感想

私は少なからずサイバーパンク小説を読んできた(と言っても両手足の指の本数くらい)つもりだが、サイバーパンク小説の中で必ずと言っていいほど扱われるテーマがある。意外に思われるかもしれないが、性である。これは一体どういうことだろうか。

サイバーパンクでは、脳をはじめとする身体を何らかのテクノロジーに接続することが多い。身体を技術に接続することは、身体の本来的な生の大部分を技術に明け渡すことを意味する。したがって、身体本来の役割は極限まで小さくなり、生命の根源である性だけが最後に残るのである。

実際、主人公の相棒であるボビイは、切実なまでに女性を欲望し、そのために電脳空間での危険な戦いに臨んでいる。そして欲望の対象となる女性もまた、闇社会で性を売る商売に就いている。

性とテクノロジー。生命の極限と非生命の極限。サイバーパンクでは、この両極が見事に接続されている。

追記:「接続」という表現をこの記事では多用しているが、「接続されている」(wired)という表現はサイバーパンクの常套句である。

『クローム襲撃』と関連の深い書籍

『クローム襲撃』と関連の深い「近代以後の西洋文学」の書籍

  • ギブスン著・黒丸尚訳『ニューロマンサー』、早川書房、1986年
  • ギブスン;スターリング著・黒丸尚訳『ディファレンス・エンジン 上・下』、早川書房、2008年
  • ストロス著・酒井昭伸訳『アッチェレランド』、早川書房、2009年
  • レム著・沼野充義訳『ソラリス』、早川書房、2015年

『クローム襲撃』と関連の深い「小説」の書籍

  • 伊藤計劃著『ハーモニー』、早川書房、2008年
  • 冲方丁著『マルドュック・スクランブル』、早川書房、2003年
  • 大原まり子『ハイブリッド・チャイルド』、早川書房、1993年
  • 神林長平『いま集合的無意識を、』、早川書房、2012年
  • 藤井大洋『Gene Mapper-full build』、早川書房、2013年
  • 吉上亮『パンツァークラウン フェイセズⅠ〜Ⅲ』、早川書房、2013年

2件のコメント

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