『弱いつながり(東浩紀)』要旨・要約、感想とレビュー

『弱いつながり(東浩紀)』要旨・要約、感想とレビュー

『弱いつながり』の基本情報

書籍名:弱いつながり
著者名:東浩紀
発行:幻冬舎
発行年:2014年

『弱いつながり』のキーワード

カテゴリ:文学、評論
キーワード:偶然性観光客

『弱いつながり』のレビュー

よく、今はネットがあるから実際に他国・他地域に旅行する必要はないという意見を聞く。確かに、インターネットの普及に伴って、私たちが知れる世界の情報の幅は格段に広がった。

だが、ネットにあげられる情報はあくまで情報化できる(言語や表象に落とし込める)情報だけであり、それ以外の情報は遮断されてしまう。リアルの経験はネットでの経験よりも遥かに豊かな可能性がある。言語化されない領域での、偶然性に満ちた出会いがそこにある。

こんな指摘をしたのが、本書を著した批評家・東浩紀である。1998年に『存在論的、郵便的』で鮮烈なデビューを飾った東は、現代日本の批評界の第一人者であり、その知性は『構造と力』を著した浅田彰も認めている。休暇中は海外に出かけることをライフワークにしている彼の豊富な経験に基づく人生論を、とくとご覧あれ。

『弱いつながり』の要旨・要約

私たちは今、ネットを手放して生きていくことができず、Googleの検索アルゴリズムによって行動が規定されてしまっている。この規定から逃れるためには、Googleが予測できない検索言語を手に入れる必要がある

Googleの網の外側の言語を手に入れるためには、一つの地域の強いつながりに固執する「村人」でもなく、絶えず地域を移動する「旅人」でもなく、ある地域で弱いつながりを形成しながら各地を移動していく「観光客」となるのが良い

具体的には、自分の身体を普段絶対に行かない場所へ移動させ、現地での具体的な事物に触れてそこから言語化されない何かを感じとり、徹底して偶然性に身を晒すべきである。

決して固定化されないその経験は、現実の共同体やネットでの強いつながりが息苦しく感じられるようになった時に、自分の視野と行動の幅を広げてくれるだろう。

『弱いつながり』における観光客の具体例:アウシュヴィッツ

筆者(東さん)は、大学院生時代にプライベートでアウシュヴィッツを訪れたことがある。

アウシュヴィッツには第1収容所と第2収容所がある。手前側の第1収容所に入ると、「ARBEIT MACHT FREI」(労働によって自由になる)と書かれた有名な看板が旅人を迎えてくれる。

この看板以外にも、第1収容所にはナチスの迫害を喧伝する展示が多数用意されており、テーマパークのような雰囲気すら感じるほど観光地として整備されている。

ところが少し先へ進んで第2収容所に入ると雰囲気は一変する。第2収容所は「絶滅収容所」という俗称の通り、ナチス人を効率よく殺害するための施設になっている。

それゆえ第2収容所では、至る所で人の死の片鱗を感じることができる。収容所の奥の林には、「ここでナチスはユダヤ人の脂肪から石鹸を取った」と読める看板があり、傍らには大きな丸い水槽がある。

その形容し難い異様さに、筆者は強い衝撃を受けた__オカルトを信じない筆者が、霊性としか言えない何かを感じてしまったのである。

この経験は、筆者の後の仕事に大きな影響を与えることになる……。

『弱いつながり』への感想

本書における重要なキーワードに「偶然性」があるが、偶然性に身を預けられるのはグローバル化が進んでいるからである

グローバル化によって世界中の都市の均質化が進むことは、一見して偶然性の出会いを阻害するように思われる。せっかく異国の都市を訪れても、得られる経験は自国の都市での経験とさほど違わないのではないか、と考える人も多いだろう。

しかし均質化が進むことは、必ずしも自国と他国との間の差が縮まることを意味しない。むしろ、自国と他国との間の共通点が増えることによって、両者の差異が際立ってくる

昔なら「ああ、やっぱり自分の国とは全然違うなあ」という曖昧な感想しか持てなかったのが、より解像度の高い感想を持てるようになる。「自分の国と文化的な構造は似ているけど、中身はやっぱり違うなあ」と思えるようになるのである。

現代は観光客の時代である。コロナさえ収束すれば、ものの数時間で海外旅行の準備ができるはずだ。さあ、思い立ったが吉日。本書を傍らに携えて、海の外へと行こうではないか。

『弱いつながり』と関連の深い書籍

『弱いつながり』と関連の深い「評論」の書籍

  • 浅田彰著『逃走論 スキゾ・キッズの冒険』、筑摩書房、1986年
  • 浅田彰;柄谷行人著『柄谷行人浅田彰全対話』、講談社、2019年
  • 東浩紀著『一般意志2.0 ルソー・フロイト・グーグル』、講談社、2011年
  • 東浩紀著『ゲンロン0 観光客の哲学』、ゲンロン、2017年
  • 東浩紀著『テーマパーク化する地球』、ゲンロン、2019年
  • 東浩紀著『動物化するポストモダン オタクから見た現代社会』、講談社、2001年
  • 東浩紀;石田英敬著『新記号論』、ゲンロン、2019年
  • 大山顕著『新写真論』、ゲンロン、2020年
  • 千葉雅也著『勉強の哲学 来るべきバカのために』、文藝春秋、2017年
  • 千葉雅也著『アメリカ紀行』、文藝春秋、2019年

1件のコメント

  1. ピンバック: 東浩紀さんのおすすめ本5選!(哲学書など) | 【OLUS】オンライン図書館

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