目次
『異邦人』の基本情報
書籍名:異邦人
原題:L’Étranger
著者名:アルベール=カミュ
翻訳者名:窪田啓作
発行:新潮社
発行年:1954年
『異邦人』のキーワード
カテゴリ:文学、実存主義
キーワード:意味、無意味
『異邦人』のレビュー
サルトルとともに、実存主義の先駆者として知られている作家、アルベール=カミュ。
実は本人は、自分が実存主義の立場にあることを否定しているのだが、それでも彼の代表作『異邦人』を、人の実存に根ざした小説として読むことは十分にできる。
カミュにとって、そしてこの小説の主人公にとっての「実存」とは何か。
人のあり方を考える上で普遍的な価値を持つ、現代小説の金字塔を堪能せよ。
『異邦人』のあらすじ
主人公・ムルソーは、ある日老人ホームに預けていた母親を亡くした。
葬儀を滞りなく終えた後、ムルソーは2日間の休暇を申請して、友人たちと海水浴に行くことにした。
ガールフレンドのマリイや、友人のレエモン、さらにレエモンの友人のマソンと共に浜辺にやってきたムルソーは、まるで母親の死を何とも思っていないかのように、平然と遊んでいた。
そんなとき、ムルソー一行は1人のアラビア人に出会った。そのアラビア人はナイフを持っていて、ムルソーたちを攻撃してくるように見えた。
レエモンから一丁の拳銃を渡されたムルソーは、少しずつアラビア人との距離を縮めていった。
夏の太陽に灼かれ、極度の緊迫を感じる中、アラビア人がついにムルソーに刃を向けてきた。そして咄嗟に、ムルソーは一発の銃弾を放ち、数瞬おいてさらに四発の弾丸をアラビア人に撃ち込んだのだった。
逮捕されたムルソーは、独房の中でひっそりと暮らしつつ、裁判に臨むことになった。
検事や裁判官は、ムルソーが母の死後に喪に服することなく遊興していたことを咎めた。
ムルソーは、その糾弾を特に否定することなく、母の死後、普通に遊んでいたことを淡々と認めた。
殺人の科に加え、母の死を悼まない冷酷さを糾弾されたムルソーは、ついに死刑判決を受けることになってしまう。
ムルソーは、死刑の宣告をやはり淡々と受け入れ、せめて孤独のない死であるようにと、死刑執行の場に多くの観客が集まるのを期待するのだった……。
『異邦人』への感想
本書の解説を担当している白井浩二氏は、本書の主人公ムルソーの性格について以下のように叙述している。
「ムルソーは、(抽象化された「愛」のような)意味づけを一切認めない。彼にとって重要なのは、現在のものだけであり、具体的なものだけだ」(本書pp.136-137、注釈は筆者)
伝統的な社会の価値観が「意味」だとすれば、ムルソーの行動は「無意味」そのものである。
母親の葬儀の後で海水浴に行くというムルソーの行動は、既存の価値観に照らせば意味不明である。だがムルソーにとって、意味の有無などどうでもいいことなのである。
自分は今海水浴に行きたい。だから海へ行くのだ!
これだけで、彼にとっては十分なのである。
現在の行動を生み出すのは現在の欲望だけであり、他の一切の価値・意味など些末な問題に過ぎない————。自身の欲望に最後まで忠実だった男・ムルソーは、周囲から理解されることなく死刑判決を受けたが、この結果もムルソーの望むところだったのかもしれない。
周囲から自分の行動を理解されるということは、その行動に何らかの価値や意味を貼り付けられるということであり、ムルソーにとってそれは非常に不愉快な行為だったはずだからである。
ムルソーは死に、社会は再び意味と無意味に切り分けられる。そこにはもはや、現実の生の真実は現れてこないだろう。
『異邦人』と関連の深い書籍
『異邦人』と特に関連の深い書籍
- カミュ著・大久保敏彦訳『最初の人間』、新潮社、2012年
- カミュ著・大久保敏彦:窪田啓作訳『転落・追放と王国』、新潮社、2003年
- カミュ著・高畠正明訳『幸福な死』、新潮社、1976年
- カミュ著・宮崎嶺雄訳『ペスト』、新潮社、1969年
『異邦人』と関連の深い「実存主義」の書籍
- サルトル著『サルトル全集<第5巻> 壁』、人文書院、1950年
- サルトル著・伊吹武彦ほか訳『水入らず』、新潮社、1971年
- サルトル著・海老坂武ほか訳『自由への道』1〜3、岩波書店、2009年
- サルトル著・鈴木道彦訳『嘔吐』、人文書院、2010年
- サルトル著・松浪信三郎訳『存在と無 現象学的存在論の試み』Ⅰ〜Ⅲ、筑摩書房、2007-2008年