始まりの言語への問い|『声の文化と文字の文化(オング )』要旨・要約、感想とレビュー

始まりの言語への問い|『声の文化と文字の文化(オング )』要旨・要約、感想とレビュー

『声の文化と文字の文化』の基本情報

書籍名:声の文化と文字の文化
著者名:ウォルター・J・オング
翻訳者名:桜井直文・林正寛・糟谷啓介
発行:藤原書店
発行年:1991年

『声の文化と文字の文化』のキーワード

カテゴリ:哲学、認識論
キーワード:声・文字聴覚・視覚依存・独立内面・外面

『声の文化と文字の文化』のレビュー

一般的に、言葉は2種類に分けられる。視覚に訴える言葉と、聴覚に訴える言葉である。

文字になっている言葉や絵文字は視覚に訴える言葉であり、私たちが対面で話す時に使う言葉は聴覚に訴える言葉である。

 

しかし、私たちが対面で「聴覚に訴える言葉」を話しているときも、私たちは自然と「視覚に訴える言葉」を意識してしまっている。

多くの人が、話を始める前に、頭の中に浮かび上がる書き言葉から話すべき言葉を選んでいる。「聴覚に訴える言葉」に対して「視覚に訴える言葉」が先行しているのである。

 

(私たちの会話は、書き言葉と密接に結びついている)

 

では、文字などの「視覚に訴える言葉」が発明される以前の「聴覚に訴える言葉」はどのように使われていたのか。文字がない世界で、人々はどのような精神性に基づいて行動していたのか。

このような疑問に鋭く切り込んだのが本書の著者・オングである。

本書は、『グーテンベルクの銀河系』で有名なマクルーハンに続くメディア論の古典として、今日でも広く親しまれている名著である。

メディアの思想に興味がある人、言葉の起源に興味がある人にはぜひ一度目を通してもらいたい。

『声の文化と文字の文化』の要旨・要約

文字が発明される以前、「聴覚に訴える言葉」は声であった。

声によって支配されている文化と、文字によって支配されている文化との重要な差異は、以下の表のように表せられる。

文字
冗長的 分析的
生活世界への密着 生活世界からの独立
感情移入的 理性的
聴覚依存 視覚依存
集団的に作用する 集団から独立して働く
身体的 記号的
内面に深く根差す 外界へ開かれやすい

文字の発明によって、声の性質が即座に失われたわけではなく、むしろ声の性質と文字の性質は互いに関連しあっている。

文字の発明以後、特に文学の世界で、声としての言葉を起源とする常套句やレトリックが、技法として用いられるようになった。

また、学術ラテン語が、文字以前の世界の神話を書き留めたことによって、文字以前の声の性質・文化が再発見されるようになった。

このように、声と文字との間には相互的な関係があり、この関係性に基づいて私たちはテクストを解釈する必要がある。

『声の文化と文字の文化』への感想

本書は、以下のようなメッセージで閉じられている。

「声の文化と文字の文化の力学は、いっそうの内面化とともにいっそうの開放へと向かっている現代の意識の進化の流れに合流しているのである」(p.364)

「いっそうの内面化とともにいっそうの開放へと向かっている現代の意識の進化の流れ」として典型的な現象がSNSだろう。特に、テキストを中心とするTwitterに顕著である。

 

(Twitterは今や当たり前のSNSツールになった)

 

Twitterの言葉は極めて内面化されている。公的な文書では通用しない表現も、Twitterの独特の語法では許容され、称賛される。

一方でTwitterは、原理上常に開放へと向かっている。内面の発露として現れる言葉は、不特定多数の他者へと開放されている。

極度に内面化され、かつ極度に開放的なTwitterの性質を、以下の記事で私は「家」という比喩によって表現している。

際限なく大きな「家」として機能するTwitterは、内面を惜しみなくさらけ出せる場所でありながら、「同居」する他者にその内面を開放する場所でもある、というわけである。

興味があれば、この記事と本書を見比べながら、現代の「声」と「文字」との関係を考察してみていただきたい。

『声の文化と文字の文化』と関連の深い書籍

『声の文化と文字の文化』と特に関連の深い書籍

  • イーザー著・轡田収訳『行為としての読書−美的作用の理論』、岩波書店、1982年
  • プロップ著・大木伸一訳『民話の形態学』、白馬書房、1972年
  • マクルーハン著・栗原裕ほか訳『メディア論』、みすず書房、1987年
  • マクルーハン著・森常治訳『グーテンベルグの銀河系』、みすず書房、1986年
  • レヴィ=ブリュル著・山田吉彦訳『未開社会の思惟』、岩波書店、1942年

『声の文化と文字の文化』と関連の深い「認識論」の書籍

  • ソシュール著・小林英夫訳『一般言語学講義』、岩波書店、改訂版1972年(初版1940年)
  • デリダ著・足立和浩訳『グラマドロジーについて-根源の彼方に』、現代思潮社、1976年
  • デリダ著・若桑毅ほか訳『エクリチュールと差異 上・下』、法政大学出版局、1977/1983年
  • メルロ=ポンティ著・滝浦静雄ほか訳『眼と精神』、みすず書房、1977年
  • ルリア著・森岡修一訳『認識の史的発達』、明治図書、1976年

コメントを残す