というわけで今回は、現役の哲学学会員である私が実践している哲学の研究方法について、初心者にもわかりやすく解説します!
哲学を専攻したいと思っている方、哲学に関心のある方はぜひ読んでみてくださいね〜!
目次
哲学の研究方法
哲学の研究とは要するに論文を執筆することなので、以下では哲学の研究方法を論文の書き方に沿って説明していきます。
細かい部分は指導する先生によって変わってくるので、あくまで一例としてご覧ください。
哲学の研究方法1:論文で扱うテーマを決めるまで
自分が関心のある分野を見つける
まずは、自分が哲学的に考えたい分野を一つ決めましょう。
分野を決めるときは、単語で考えるのをおすすめします。単語に絞っておくとあとで検索にかけやすいからです。
私は「他者」という研究分野を選んで研究を始めました。自分とは違う存在(AIなど)について考えたかったからです。
自我・時間・生命・肉体・神などなど、「これ、いいな」と思える研究分野を見つけましょう。
研究対象にする書籍を決める
哲学的に考えたい研究分野が見つかったら、その分野について語っている有名な哲学者の書籍を見つけ、いい書籍が見つかったら研究対象にしましょう。
「書籍を研究対象にする」とはつまり、その書籍の解釈の方法について研究するということです。
学部学生や修士の学生は、大体このような形で書籍を研究対象にしています。
哲学を専攻しているからと言って、いきなり「神とは何か?」などとテーマを立てても、テーマが漠然としすぎていて論文にできないのです。
というわけで、特に初心者のうちは、自分の関心のあるテーマを扱った書籍についての論文を書くことになります。
書籍の探し方ですが、Googleで検索するのが一番早いでしょう。
例えば、「他者 哲学書」と検索すると以下のような画面が出てきて、哲学者である野矢茂樹やレヴィナスの書籍がサジェストされます。
どんなテーマで検索しても、何人かの哲学者がヒットするはずなので、今度はその哲学者の人名で検索してみてください。
Wikipediaの人物紹介とともに、何冊かの哲学書がヒットすると思うので、上位に挙げられている書籍を図書館で借りたり本屋で購入したりして、パラパラ読んでみましょう。
パラパラ読んでみて、「この本がいいな」と思う本を見つけられたら、その本が研究対象になります。
研究対象にする書籍を原典で精読する
研究対象にする書籍が決まったら、必ずその書籍を
原典で
精読してください。
カントならドイツ語で、デカルトならフランス語orラテン語で、プラトンなら古典ギリシア語で書籍を読む必要があります。
というのも、人文科学の世界では翻訳も一つの解釈とみなすので、原典の翻訳を読んでもその書籍自体を読んだことにはならないのです。
「じゃあ、自分が読める言語で書かれた書籍しか研究対象にできないの?」という話ですが、そうです、その通りなのです。だから、哲学の研究者は語学に通じていなければなりません。
大学1年生の方は第二外国語を真面目に学んでおくと、将来研究の役に立つので、頑張ってみてくださいね。
論文で扱うテーマを挙げる
哲学書を原典で読む作業は時間がかかりますが、コツコツやっていけばいつか終わります。
論文を書くためには、研究対象にしている書籍から、論文で扱うテーマを引っ張り出さなければなりません。
書籍を読んでいるときに、たくさん疑問点が出てきたでしょうから、その疑問点の中から重要そうな点を見つけてみてください。
その重要そうな論点が論文で扱うテーマになります。
哲学の研究方法2:論文の研究課題を設定するまで
研究対象にする書籍についての資料を集める
重要そうな論点が絞り込めたら、その論点を扱っている書籍や論文などの資料を集めましょう。
研究対象となる書籍そのものを「一次資料」と呼ぶのに対して、その書籍についての資料は「二次資料」と呼ばれています。
この二次資料の収集量が、論文の質を決めると言っても過言ではありません。
研究対象にする書籍にもよりますが、学部や修士の哲学の研究ならば大体300本程度の資料を収集して文献リストにまとめる必要があります。
(私の文献リストの一部です)
実際に論文で使用するのはこのうちの50本程度なのですが、自分が素人ではないことを教授陣に示すために、できるだけ多くの資料を集めておく必要があるのです。
面倒くさいと思うかもしれませんが、今後の研究の基礎を固めるために、しっかり二次資料を読み込みましょう。
問題にする論点を中心に資料の内容を整理する
二次資料を集められたら、自分が問題にしたい論点を中心に資料を整理しましょう。
流石に、200〜300点もある二次資料を、全て一次資料のように精読するわけにはいきません(もちろん時間が十分にあれば話は別ですが)。
ですから、目次や序論を見て、自分の研究に関わりがある部分を中心に読むようにしましょう。
ただし、あまりにも読む範囲を狭くしてしまうと、逆に底の浅い研究になってしまうので、少しでも関連があると思ったら目を通すようにしてくださいね。
整理した資料から研究課題を見つける
自分が研究する論点を中心に資料をざっくり整理できたら、その論点に関する研究課題を見つけましょう。
いきなりやれと言われてもなかなか難しいと思うので、具体例を紹介しますね。
私が研究しているフランスの哲学者レヴィナスは、<他者>について画期的な思想を提示した哲学者として有名ですが、<女性>に対しては保守的な立場をとっていたとも言われています。
しかし同時に「レヴィナスの<女性>観は非常に革新的だった!」とする意見も多くあり、レヴィナスの<女性>は長い間議論され続けています。
このような、「保守vs革新」のような二項対立の図式は論文の課題として非常に便利です。
この二項対立の図式を乗り越えることを論文のテーマにすれば、誰が見ても意味のある論文になるからです。
というわけで、みなさんもぜひ二項対立に注目して研究課題を見つけてみてくださいね。
哲学の研究方法3:序論を執筆するまで
研究課題を乗り越えるための策を練る
さて、研究課題が決まったら、その課題をクリアするための策を練る必要があります。
「最前線の研究者が対処できないような問題を、素人がどうやって解決するの?」
と思われるかもしれませんが、難しい問題であれば、「問題を解くためのヒント」を提示するだけでも有益な論文になります。
私も、「レヴィナスの女性観は保守的か革新的か」という問題に直接答えるのは難しいと感じたので、レヴィナスの著作の一つである『全体性と無限』における女性像について調べることにしました。
一つの著作の中での女性像を確認しておけば、レヴィナスの思想全体における女性観がより明確になると思ったわけです。
こんな感じで、研究課題を乗り越えるための策をできるだけ具体的に考えてみましょう。
練った策を基に議論のアウトラインを作成する
研究課題を乗り越えるための策が決まれば、いよいよ本格的に論文を執筆する段階に入ります。
まずは議論のアウトラインを作りましょう。
「レヴィナスの『全体性と無限』の女性像を整理してレヴィナスの女性観を明確にする」という課題なら、次のようなアウトラインが考えられます。
- 『全体性と無限』で<女性>は第2部と第4部で議論されているので、それぞれの議論の流れを整理する
- 『全体性と無限』第2部から第4部までの議論の流れを大きく掴み、第2部と第4部それぞれの<女性>論の役割を考察する
- 以上の議論を整理して、『全体性と無限』に通底する<女性>の思想を分析する
こんな感じで、課題を細分化して、スモールステップで議論を進めるようにしましょう。
アウトラインを基に序論を作成する
アウトラインができたら論文の序論を書いてみましょう。
序論に書くことは大体以下の通りです。
- 論文の課題の宣言
- 課題の重要性
- その課題に関連する先行研究の整理
- 論文の構成(各章・各節の内容)の宣言
課題の重要性は、専門が違う人にもわかるように、一般的な社会問題に絡めて示すといいですね。
哲学の研究方法4:本論を完成させるまで
各章で必要な二次文献を整理し、追加する
序論を書くと、論文で書きたいことがより明確になるので、論文の各章のテーマも確定できるはずです。
ここで一度、論文の各章で扱うことになる二次資料を改めて整理して、必要があれば追加しましょう。
最初に二次資料を集めたときとは別の視点で資料を考察できるようになっているはずです。論文の質を上げるために、もう一度資料を整理・分析しましょう。
本論のレジュメを作る
序論を書くときに論文の各章・各節の構成は決まりましたが、本論を実際に執筆する前に、各節で書くことを箇条書きで整理しましょう。
本論のレジュメを作るということですね。
哲学の論文は数万字から数十万字に及ぶ長大なレポートです。長大な論文で首尾一貫した主張をするためには、予め書く内容をきっちり決めておくことがとても重要です。
面倒くさがらずに、しっかりレジュメを作りましょう。
本論を実際に執筆する
レジュメが完成したら、いよいよ本論執筆です。
書くべきことはレジュメが完成した時点で決まっているはずなので、あとは書くだけです。これまでの自分の研究を信じて、迷わず筆を進めましょう。
書き終わったら、校正作業を先生やゼミの同期・先輩とやることになります。
自分で確認するのは限界があるので、できるだけ多くの人から意見を集めて論文の質を高めていきましょう!
哲学研究のまとめ
哲学の研究方法のまとめ
- 自分が哲学的に研究したい分野を決めて、哲学者の書籍を原典で読んで、論文で扱いたいテーマを決める
- 研究対象にする書籍についての資料を網羅的に収集して研究課題を見つける
- 研究課題を乗り越えるための策を練って、議論の構成を考えて序論を執筆する
- 資料を整理・分析しながら、本論のレジュメを細かく作成し、実際に本論を作成して、校正する
哲学の研究は一日にして成らず
この記事で見てきたように、哲学の研究は一朝一夕にはできません。
原典の資料を長い時間をかけて精読し、資料をたくさん集めて課題を分析して数万字以上の論文を執筆する必要があります。
しかし、時間をかければかけるだけわかることも増えますし、自信を持って哲学的な議論ができるようになります。
もし哲学の研究に興味があるなら、ぜひコツコツ頑張ってみてくださいね。
それでは!!