数とは何か|『確かさを求めて(ジャキント)』要旨・要約、感想とレビュー

数とは何か|『確かさを求めて(ジャキント)』要旨・要約、感想とレビュー

『確かさを求めて』の基本情報

書籍名:確かさを求めて-数学の基礎についての哲学論考
著者名:M.ジャキント
翻訳者名:田中一之
発行:培風館
発行年:2007年

『確かさを求めて』のキーワード

カテゴリ:哲学、分析哲学
キーワード:クラスパラドクス型理論循環論法原理公理的集合論不完全性定理

『確かさを求めて』のレビュー

この世に確実な事柄があるとすれば、その事柄は数学によって示されうる。

では、その事柄の確実性を担保する数学の確実性は、いかにして担保されるのか?

数学基礎論や数理論理学の哲学の課題を一言でまとめると、このような課題になる。

本書は、この課題に向き合ってきた19世紀から20世紀の数学・哲学の成果を初学者にもわかるように丁寧にまとめた一冊になっている。

数学の哲学や論理学の哲学に興味がある人は、ぜひ一度目を通していただきたい。

『確かさを求めて』の要旨・要約

(紙面の都合上、そして曖昧な言説を避けるため、各専門用語に対する解説は省いてある。太字赤字で強調している部分は重要な用語なので、適宜検索してみてほしい)

19世紀における解析学の発達によって、空間的な直観に依存しない、厳密な極限の定義が可能になった。

極限の定義の整備に伴って、私たちが日常的に利用している実数を極限によって定義しようという動きが出てきた。

カントルやデデキントが、クラス(集合)極限を利用して実数・自然数を定義すると、ラッセルやフレーゲがクラスの理論を応用させて量化詞の論理を整備させた。

だが、彼らが依拠していたクラス理論には後に「クラスパラドクス」と呼ばれる逆説が含まれていた。

フレーゲやラッセルは型理論循環論法原理を用いてこのパラドクスの解消に挑み、その挑戦を踏まえて、ドイツの数学者・哲学者だったツェルメロは公理的集合論を提唱した。彼が提唱した公理系は、今日ではツェルメロ・フレンケルの公理系(ZF)として知られている。

しかしツェルメロの公理的集合論は、その体系が無矛盾であるという証明がなされておらず、依然として疑念が残されていた。この疑念を告発したのがスコーレムであり、後に不完全性定理を発表したゲーデルである。

ゲーデルの定理は公理系の無矛盾性の問題に決定的なダメージを与えたが、後にツェルメロは「ユニバース」という集合論を唱え、クラスパラドクスを厳密に解消しうる公理系を整備した。

『確かさを求めて』への感想

本書で紹介されている各理論は、それぞれについて解説するだけで数万字を要するので、簡単には紹介できない。

しかしとっかかりがないと理解の糸口が掴めないと思うので、ここでは「クラスパラドクス」の前提になるカントルの実数の定義の議論を少しだけお見せしたい。

カントルによる実数の定義

任意の有理数p>0に対してある整数m>0が存在して、任意のk>mに対して|Sm – Sk|<pが成立するような有理数の数列{Sn}を設定する。

カントルはこの数列を「基本列」と呼び、各基本列が実数を表すと定めた。

基本列と呼ばれるこの数列が何を意味しているかというと、要するにこのような数列{Sn}はある実数値に収束するということである。

このような数列の例として、Sn = 1/nが挙げられる。普通の関数で言えば、「反比例」のグラフに相当する。

pをどれだけ小さく取っても、p = Snを満たすnの値よりも大きな値をmとして設定すれば、SmとSkの値の差の絶対値をpよりも小さくできるので、この数列は基本式の条件を満たしている。

この数列は、nの値を大きくしていくと実数値0に収束する。よってこの基本列である数列Snは、実数0に対応するというわけである。

実数を空間から解放するために

なんでたかが実数を規定するのにこんな面倒くさい作業をするのか、と思われるかもしれないが、それは実数が離散ではなく連続だからである。

数直線をはじめとする直線は点の集合である。そこで、数直線から1点を取り除くことを考えてみよう。取り除かれた1点に隣り合っていた2点の間には正の距離がなければならないが、点は幅を持たない(大きさを持たない)。したがって、この2点の距離は0になる。そうすると、この2点はくっついていることになり、矛盾が生じる……。

というわけで、数を空間的に捉えると矛盾が生じてしまう。だから数学者たちは空間的な直観に依存しないで数を表現する方法を考え、カントルは有理数の数列と極限を利用して実数を定義することを考えついた。

カントルたちの試みは結果としてクラスパラドクスという逆説を招いてしまったのだが、数を空間から解放させた彼らの功績は、数学的にも哲学的にも正当に評価されるべきであろう。

『確かさを求めて』と関連の深い書籍

『確かさを求めて』と特に関連の深い書籍

  • 飯田隆著『知の教科書:論理の哲学』、講談社、2005年
  • 田中一之・鈴木登志夫著『数学のロジックと集合論』、培風館、2003年
  • 田中一之編『ゲーデルと20世紀の論理学(ロジック)』第1巻ゲーデルの20世紀、東京大学出版会、2006年
  • ヴリフト著:牛尾光一訳『論理分析哲学』、講談社、2000年

『確かさを求めて』と関連の深い「分析哲学」の書籍

  • ヴィトゲンシュタイン著・丘沢静也訳『哲学探究』、岩波書店、2013年
  • ヴィトゲンシュタイン著・丘沢静也訳『論理哲学論考』、光文社、2014年
  • フレーゲ著・野本和幸;黒田亘訳『フレーゲ著作集<4>哲学論集』、勁草書房、1999年
  • フレーゲ著・野本和幸;土屋俊訳『フレーゲ著作集<2>算術の基礎』、勁草書房、2001年
  • Russell; Whitehead: Principia Mathematica Volume One ~ Three, Merchant books, 2009

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